
ツァラトゥストラ(1)
中学や高校の歴史の教科書で「拝火教」の別名とともに出てくるゾロアスター 教のその名はゾロアスター(BC650?-570?)という一人の個人名から出ています。 その宗教は古代のアーリア人の原始的な信仰をベースに、ゾロアスターが体系 化したもので、アレクサンダー大王の東征により破壊されますが、後にサザン 朝ペルシァで復興されて原典が再編され、イスラムの侵入により壊滅し、現在 はインドのパールシー教徒などごく小数の人たちにのみ伝えられています。
したがってゾロアスターが登場する前に既にそのベースとなる宗教があった訳 ですが、普通は便宜的にその辺りから、再興されたサザン朝ペルシァでの信仰 まで含めてゾロアスター教の名前で呼ばれています。当然ゾロアスター本人が 唱えた教義とは異質のものも含まれますが、それを言えば現在の仏教とブッダ の唱えたこととの差異、現在のキリスト教とキリストが唱えたことの差異など もあることです。
ゾロアスターはギリシァ語読みで、イランではザラスシュトラとなるようです。 今回の短い連載の中では、宗教名としては一般に通じているゾロアスターを使 うものの、教祖名は、以後一応この現地名を使うことにしましょう。
アーリア人は中央アジアで古代活動していた民族で、その一部はインダス文明 の衰えていたインドに侵入して現在のインドの主力民族となり、一部はイラン 高原に移住して現在のイラン人の祖先となったとされています。この為、ゾロ アスター教の世界をのぞいてみると、ヒンズー教の神々と似た名前の神がいた りして、この宗教は東西の宗教世界を考える上でのミッシングリング的な意味 合いを持っているようにも見受けられます。
例えばゾロアスター教の教義の中で特徴的なものは二元対立論で、その中心に アフラとダエーワの対立があります。ここでゾロアスター教ではアフラが神で あり、その中心に光の神アフラマズダがいて、一方ダエーワは悪魔の総称とさ れるのに対して、ヒンズー教ではアフラに相当するアシュラ=阿修羅はむしろ 征服されるべき悪であり、ダエワに相当するデーヴァ=天が神々の総称になっ ています。
ヒンズー教の研究者の中には阿修羅はアーリア人に征服された古代インド部族 を表わすという解釈をする人もいますが、この対比を見ると、むしろアーリア 人の中に対立する二大勢力があり、その一方がアフラを頂く者たちで一方がデ ーヴァを頂く者たちだったのではないか、そしてアフラの民がイランに、デー ヴァの民がインドにそれぞれ移住して住むようになったのではないか、という 想像もできるのです。
ザラスシュトラの生まれたのはだいたいBC650か630くらいであると推定されて います。父の名前はポルシャスパ、母の名前はドゥグゾーワーで、誕生と同時 に笑ったという伝説が残っています。
20歳の時に出家、30歳で啓示を受けます。そして42歳の時にウィーシュ タースパ王の帰依を受けてその後も宣教活動を続け、77歳の時にトゥーラン の軍隊に攻撃された神殿の火を守り続けようとして殉教したとされます。彼の 活動した地域は主として現在の東イラン地方であったという説が有力です。
