世界の神話(12) カーリー

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BC15世紀頃、それまでカスピ海北東部の平原地帯で暮らしていたアーリヤ人 たちが突然その地を捨てて、ある部族は南へ、ある部族は西へ、と移動を始め ました。西へ移動した部族は黒海の北部を横切りギリシャに侵入して一部はフ ェニキア付近まで到達しています。南へ移動した部族はカスピ海の南東付近で 大きく二つに分かれ、東へ行った部族が現在のインド人の祖先となり、西へ行 った部族がイラン(ペルシャ)人の祖先となりました。

そのため、イラン人の宗教ゾロアスター教とインド人の宗教ヒンズー教は兄弟 の関係にあり、互いに似た神格が存在します。しかし両者には決定的な相違点 があります。それは、いづれも善神たちと悪神たちの対決というモチーフがあ るのですが、ここでペルシャでは善神がアフラと呼ばれ、悪神はダエーワと呼 ばれているのに対し、インドでは善神がデーヴァと呼ばれ、悪神はアシュラと 呼ばれています。つまり善悪が反転しています。恐らくデーヴァ族はインドに 来た部族の神、アフラはイランに来た部族の神で、両者が対立していたために こういうことになったのでしょう。

さて、そのインドの方の神話をたどります。デーヴァ族とアシュラ族の闘いが 長く長く続き膠着状態になりつつあったとき、デーヴァ族の神々の怒りの火の 中から新しい女神が生まれます。これがドゥルガーで、彼女は神々から多くの 武器をプレゼントされ、ライオンに乗って戦場に赴きました。

(美女とライオンというのはタロットの「力」のイメージですね)

彼女の参戦により戦争は新たな段階に入り、ドゥルガーは優しい顔に似合わぬ 力強さでアシュラ族を次々となぎ倒して行きます。

しかしアシュラ族もこの強敵出現に対してもっとも強力な魔神たちを差し向け、 なんとかドゥルガーを倒そうとします。これに対してはさすがのドゥルガーも 苦戦し、その穏和な顔が厳しくなっていきます。そして苦しさの余りその顔が 黒くなった時、そこからまた新しい女神が生まれました。これがカーリーです。

カーリーは黒い顔をし血走った目をして、大きな口から長い舌を出しています。
非常に好戦的な女神で、破壊と殺戮を楽しみます。そしてアシュラ族の魔神た ちを次々と血祭りに上げ、そのはらわたを食らい、倒した魔神の生首をいくつ もつないで首飾りにしました。彼女の前にはさすがの強力な魔神たちもかなわ ず、ついに戦争はデーヴァ族の勝利になるのです。

しかし、戦争に決着がついても、カーリーの勢いは止まりません。デーヴァ族 のものでさえ、うかつに近寄ると殺されてしまうような状況です。誰も恐れを なして近づけなかった時、破壊を司る神シヴァが彼女を止めに行きました。し かし恐れを知らぬカーリーはそのシヴァをも踏みつけてその上で踊り狂うので す。しかし、シヴァが静かに「おいおい、もう戦争は終わりだよ」と言うと、 カーリーはようやく正気に戻り、はじめてシヴァに向かって舌をペロリとさせ て笑ったのです。

現代ではカーリーもドゥルガーもシヴァの妃とみなされています。シヴァの妃 といえば一般に山の娘・パールヴァティが有名ですが、パールヴァティが昼の 顔、カーリーが夜の顔、ドゥルガーはその中間とされ、これは実は全て同一の 神の別の面を表すとされます。そして、パールヴァティを連れている時はシヴ ァは普通の穏和な修行者の顔ですが、カーリーを連れている時はシヴァも恐ろ しい魔神のような顔になり、マハーカーラ(大黒天)になるのです。カーリー は仏教では大黒天女と呼ばれています。

またシヴァにとって、カーリーというのはその重要なエネルギー源であり、二 人は性交によりそのエネルギーを交換します。そのため彼女はシャクティ(性 力)とも呼ばれます。インドでシヴァとカーリーを祭る祭殿にはたいていリン ガヨニがあり、リンガがシヴァを、ヨニがシャクティを表します。

一般にヒンズー教はヴィシュヌ派とシヴァ派に分かれると言われるのですが、 シヴァ派の中でもドゥルガーやカーリーを重視する一派があり、これはシヴァ 派から独立した存在とみなされることもあり、シャクティ派と呼ばれています。
カーリーはカーリーガットとも呼ばれることがあり、この言葉がなまってカル カッタになりました。カルカッタは彼女の聖地で、そこにはカーリーの大神殿 があり、19世紀頃までは、しばしば男の子の生け贄が捧げられていました。
むろん現代ではもう行われていません。ドゥルガーの場合は最初から獣の生け 贄でよかったようです。

カーリーの姿は一見不気味ですが、この小気味のいい姿は庶民に非常に人気が あり、カーリーの絵姿はよく売れています。あの姿は女性原理が100%解放 された躍動感を表すのだと、指摘する人もあるようです。彼女のイメージには 血と性と死の雰囲気が漂っていますが、彼女の姿は、人間の体には血が流れて おり、人間が繁栄していくために性は必須のものであり、人間に死は避けられ ないものであることを思い出させてくれます。

(1999-04-30)
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