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written by そよ風 on 98/06/14 07:30


       やそ       いで
●わたの原、 八十島かけて、漕ぎ出ぬと、人には告げよ、あまの釣船/参議篁

解説:「わたのはら」とは和田原・海原などと書きますが、海のことです。
   海の神様「わたつみの神」は有名ですね。この神様は福岡県の志賀島が
   本拠地。『那倭国王』の金印が出土したところです(^^)

   「あま」は漢字で書けば海人。漁師のこと。

   この歌の意味は『私が大海原を沢山の島を経て舟を漕いで行ったと人に
   伝えて下さい、漁師の人たちよ』といったところです。歌の背景は参議
   篁について説明すれば見えてきます。

   参議・小野篁(おののたかむら)は、小野小町の祖父という説もありま
   すが、小野小町の所でも書いたように私はこの説には否定的です。篁の
   孫としては小野道風が有名です。

   博学で漢詩に通じていましたが、和歌も古今集などに12首残っていま
   す。上記の歌も古今集のものです。父親の岑守(みねもり)と同様参議
   まで進みましたが、彼は民間伝説上の人物でもあります。

   篁は実は地獄の裁判官であったというのです。

   右大臣の藤原良相(よしみ)が病にかかり高熱にうなされ、医者も手の
   打ちようがなく首を横に振る状態になりました。その時、良相は熱にう
   なされながら夢を見ていました。きれいな野原を歩いて行き、やがて川
   を渡ります。すると向こうに地獄の獄卒がいて、彼らが良相を引き立て
   閻魔大王の前に連れて行きました。
   
   「そうか自分は死んでしまったのか」と思っていたところ、大王の横に
   並んでいた裁判官の一人が進み出て『大王様、この者は右大臣まで勤め、
   たいへん高潔な人物として知られている人です。私に免じて、どうか生
   き返らせて下さい』と発言しました。

   良相がその裁判官の顔を見ると、なんと小野篁です。良相が驚いている
   と閻魔大王は「生き返らせるというのは難しいことだが、お前が言うの
   であれば仕方ない。返してやれ」と獄卒に命じたのです。そこで良相は
   意識を取り戻しました。

   病気が全快してから良相はその話を篁にしました。ところが篁は話を途
   中でさえぎり、『その件は内緒なので誰にも言わないで下さい』と言っ
   たとのことです。

   京都には小野篁が地獄に出勤していく時に通った井戸というのがありま
   した。行く時に使った井戸は清水坂の珍皇寺の裏庭の井戸でこれは現存
   しています。帰る時に使った井戸は嵯峨野の福生寺というところにあっ
   たのですが、残念ながらお寺が潰れてしまい、今はなくなってしまいま
   した。福生寺にあった篁の像は現在近くの薬師寺に安置されています。

   さて、そろそろ歌の本題に戻りますが、これは篁が若かった頃の出来事
   です。彼は35歳の時に遣唐使の副使を命じられるのですが、大使に命
   じられた藤原常嗣と喧嘩をしてしまい、怒って病と称して遣唐使の船に
   乗船しませんでした。そのことで即、処罰をくらって隠岐に流罪になり
   ます。上記の歌はこの時、隠岐に行った時に歌ったものです。

   彼が参議まで進んだのは、この隠岐への流罪が解除されて再び都に召喚
   されたのちのことです。

試訳:
   Over the field of waves,
   Over the plenty of islands,
   Oh, fishers, please
   Tell my people,
   that I pulled out to sea away.

   by Privy Councillor Takamura.




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