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イメージの源泉(4-21)ディオニュソス
written by Lumiere on 96/03/06 05:49
イメージの源泉 第四部 ギリシャの風 (21)ディオニュソス 今回のシリーズの最後にはディオニュッソスを書きます。彼については以前も デーメーテルとの関連で少し触れましたが、今回はこちらを中心に書きます。 ディオニュッソス(バッカス)はゼウスの子ですがその母についてはペルセポ ネ、レテなど多数ありますが、やはり最も有名なのはセメレだという説でしょ う。セメレはハルモニアの娘で人間ですが、ゼウスの訪問を受けて身篭りまし た。彼女はいつも夫が変装しているのにある時気付き、その変装を解いてくれ るように頼みました。これはヘラの差し金だったとも言われています。 何度も頼まれて困ってしまったゼウスですが、とうとうある日拒否できなくて 本来の姿をあらわします。するとセメレはゼウスの雷に当って死んでしまいま した。ゼウスはこれを嘆き、せめてお腹の中の子供だけでも育って欲しいと、 その子供を自分の腿の中に入れ、臨月まで育てました。こうして、ディオニュ ッソスはアテナと唯2人だけの、ゼウスから生まれた子供となりました。 ディオニュッソスは山のニンフのニュサ、セメレの妹のイノ、そしてもう一人 テュオネという三人の女にゼウスの依頼により女の子として育てられ、後にパ ンの息子のシレノスに教育を受けました。彼の乳母の三人目についてはコロネ であるという説もありますが、三人であったということは確かなようです。ち なみにテュオネは熱狂する女、コロネは烏の女という意味です。 もし彼の乳母の一人がテュオネという名であれば、それはもしかしたら実の母 のセメレのことかも知れません。ディオニュッソスは母を冥界から連れ戻そう として、冥界の女王ペルセポネが喜ぶあるもの(花束という説と、プロシュム ノスと呼ばれる秘教でつかわれる男根像という説がある)を持って訪れ、セメ レを返してもらったからです。そして彼は父のゼウスに頼んでセメレを神の列 に加えてもらい、その後彼女はテュオネという名で呼ばれるようになりました。 冥界を訪れた三人〜オルペウスとヘラクレスとディオニュッソスの内、オルペ ウスは意志の弱さのため妻を地上に戻すことができませんでした。ヘラクレス は腕力にものを言わせてテセウスを解放しケルベロスを連れて行きました。そ してディオニュッソスだけが平和裡に自分の母を救い出したのです。 ディオニュッソスは少年時代、シレノスと一緒に各地を旅し、人々にぶどうの 栽培を教えました。かれらにはぶどう酒に酔って踊る崇拝者の集団ができてい き、「バッカスの巫女」と呼ばれるようになりました。 二人は非常に陽気で、しかもクレイジーでしたし、崇拝者たちもクレイジーで した。中には酒と信仰と踊りで完全に酔ってしまい正気を失ってわが子をバラ バラに引き裂いて殺す母親もあったとされます。これが誰かということについ てはオルコメノス王のミニュアスの娘たちであるという説、ティリュンス王の プロイトスの娘たちであるという説、そして奇妙ですがセメレとイノの妹アガ ウエであるという説まであります。アガウエが殺したとされるのはペンテウス ですが、彼はオイディプスの母のイオカステの曾祖父でもあります。ペンテウ スという名前は最初から「難を受ける男」という意味であるという指摘もあり ます。 別の説によればディオニュッソス自身も引き裂かれて神々に食べられてしまっ たともいいます。この時アテナだけが自分の分け前とされたディオニュッソス の心臓を食べずにゼウスに返し、ゼウスはこの心臓で飲物を作りセメレに飲ま せ、その結果彼女は再びディオニュッソスを妊娠したのだとされます。この説 の場合、最初にディオニュッソスを産んだのはデーメーテル又はペルセポネで あるとされています。ディオニュッソスは永遠の少年イアッコスと同神とみな されますが、イアッコスはまたペルセポネ自身が冥界から再生した姿でもあり、 ディオニュッソスは常に死と再生というテーマと深く関わっているようです。 青年期のディオニュッソスのエピソードとしては海賊に誘拐された話が有名で す。この海賊たちは岬に立っていた美しい姿のディオニュッソスを貴族の息子 か何かかと思い、無謀にも誘拐して船の中に捕らえます。すると突然海の中か らぶどうのつるが現れ船のマストにからみつきました。そしてオールはみな海 蛇に変わって勝手に遠くに泳いで行ってしまい、船は全く動けなくなってしま ったのです。海賊たちが驚いているとディオニュッソスは金色の獅子に変身し 後ろ足で立って踊り始めました。これに怯えた海賊たちが海に飛び込んで逃げ ると、彼等はみな海豚になってしまいました。一人彼が船にさらわれて来た時 に彼をかばってくれた舵取のイカリオスだけが助けられました。 またディオニュッソスはテセウスに置き去りにされていたアリアドネを助け、 彼女をなぐさめて、やがて結婚したと言われています。この結婚式の時にアリ アドネがかぶった金の冠は天上にあげられて星座になりました。結婚式をあげ た島はディア島と呼ばれ、結婚して後アリアドネはアリデラと呼ばれるように なりました。アリアドネという名前は聖なる女という意味ですが、アリデラは 遠くからも見える女という意味です。 ディオニュッソスは死とも深く関わっていますが性とも深く関わっています。 彼の異名の中にはオルトス(直立するもの)というものもあり、男根崇拝との 関連も伺えます。またアルセノテリュス(両性を持つ者)とかデュアロス(両 性の者)という名もあり、最初女の子として育てられたという伝説などと合わ せてみても、彼が両性具有的な性質も持つことが伺えますが、この付近は秘教 の中にあって公開されなかったものの一つのようです。彼とデーメーテルとペ ルセポネを主人公とするエレウシスの秘儀も非常に女性色の強い秘祭で、男性 は女装して参加しなければなりませんでした。 ディオニュッソスの異名の中にはリュシオス(緩い者)というのがあります。 彼はぶどう酒と踊りによって人々を恍惚にさせ、心を普段の人格の狭い枠の中 から解き放つものだからです。そしてこれは河合隼雄氏なども指摘するように 聖なるものへ通じる道のひとつなのです。 デイォニュッソスとよく混同される神にパンがいます。パンはいわばディオニ ュッソスの保護者でもあり、彼の息子のシレノスはディオニュッソスの教育者 でしたし彼の子孫のサテュルスたちが多くディオニュッソスに付き従っていま した。 パンについてはヘルメスの子供であるとか、ゼウスとカリストの子供であると かいった説もありますが、それでいてギリシャ神話の最初の頃から登場してい ます。ゼウスたちがクロノスらの巨人族と戦った時もパンはゼウスに味方して 大きな声を上げこれは「パニック」と呼ばれて大いに恐れられました。 もともと「パン」という言葉は「全て」という意味であり、インドの「オーム」 と同じで、全宇宙の象徴でもあります。パンは最も古い神でもあり、かつ常に 新しい神でもあるようです。