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written by Lumiere on 96/03/02 18:12


          イメージの源泉 第四部

          ギリシャの風 (13)エディプスの悲劇

心理学のエディプス・コンプレックスでその名が知れるオイディプス(エディ
プス)は、「腫れた足を持つ者」という意味です。この名前はその出生の秘密
にあります。

オイディプスの父はライオスといい、彼は若い頃クリュシッポスという青年に
恋して彼を略奪して結婚したことがありました。二人はやがて別かれますが、
相手のクリュシッポスはこの事を恥じて自殺してしまいます。やがてライオス
は普通の女性イオカステと結婚し、テーバイの王位に付きますが、二人の間に
はなかなか子供が生まれませんでした。そこで彼はアポロン神殿に行き神託を
受けました。その結果は「お前は若い頃の罪により神の呪いを受けた。子供は
作らない方がよいのだ。どうしても欲しいのであれば授けよう。しかし、その
子供はやがてお前を殺し、一家は血に汚されるであろう」というものでした。

ライオスはこれで子作りに意欲を失いますが、皮肉なことにそうなると子供と
いうものはできてしまうもので、イオカステは妊娠し、男の子を産み落としま
した。彼はその子供が自分を殺すというのを恐れて、彼の足を釘で打ち抜いて
キタイロンの山に捨てさせました。

これを拾って育てたのがコリントス王ポリュボスと妃のペリボイアでした。彼
らはわが子のようにオイディプスを可愛がって育て、オイディプスも両親を非
常に愛していました。しかし、ある時彼は友人に「お前はちっとも親に似てな
いな」とからかわれます。彼はオイディプスがポリュボスたちの子供でないこ
とを知っていたのでした。そんなことは全然気付きもしなかったオイディプス
は両親に自分の出生のことを尋ねますが、二人はお前は間違いなく私たちの子
だ、としか言いませんでした。思い悩んだ彼はアポロン神殿に行って神託を受
けます。しかし神託は彼がポリュボスとペリボイアの子供かどうかということ
については全く触れず、「お前は父を殺し母を妻とするであろう」と告げます。

彼にとって父と母というのはポリュボスとペリボイア以外に考えられませんで
した。そこで彼は自分が親殺しを犯してはいけないと考え、だまってコリント
スを去っていきます。

旅に出たオイディプスは山道で数人の従者を連れた男に会います。男が横暴に
道を空けろ、といったことから彼はオイディプスと喧嘩になり、オイディプス
は彼と幾人かの従者を殺して谷間に投げ捨てました。残った従者たちはほうほ
うのていで逃げ去りました。

やがてオイディプスはテーバイの町にたどりつきます。テーバイはその時怪物
スフィンクスに悩まされていました。スフィンクスは顔は人間の女性、体はラ
イオンで鷲の翼を持つ怪物で、道を通るものに謎を掛け、それを解けない者を
次々と食い殺していたのです。話を聞いたオイディプスはその怪物を倒してや
ろうと出掛けていきます。怪物はオイディプスを見るとこう言いました。

「朝は4本足、昼は2本足、夕方は3本足のものとは何か?」

オイディプスはそれを聞くと「人間だ」と答えます。スフィンクスは驚いたよ
うでしたが「なぜ人間なのだ?」と聞きます。彼は答えて言います「朝とは人
間が生まれてすぐのことだ。赤ん坊はよつんばいになってはいはいする。しか
し人生の昼大人になれば2本足であるく。そして夕方、老人になると杖をつい
て歩くから3本足なのだ」それを聞いたスフィンクスは自ら塔から落ちて死ん
でしまいます。

オイディプスはこの功績によりテーバイの人たちに熱狂的に歓迎され、摂政の
クレオン(イオカステの弟)から、旅の途中で何者かによって殺されたライオ
ス王に代って王妃のイオカステと結婚して王位についてくれるように乞われま
す。彼は承諾し、二人の間にはイスメネ・アイティゴネ・ポリュネイケス・エ
テオクレスという4人の子供が生まれました。

ところがしばらくすると、テーバイに悪疫がはやります。これを鎮めるにはど
うすればいいかアポロン神殿にお伺いを立てたところ「この国にはけがれがあ
る。それをはらわなければならない」という神託が出ます。オイディプスは、
これは先王ライオスの殺害の犯人を捕らえなければならないということではな
いか、と思い当ります。

彼はライオスを殺した犯人を知るものはいないか、と布告を出しますが、名乗
り出るものはありませんでした。その時町の長老が盲目の予言者テイレイシア
スなら何か分かるかも知れないと進言します。そこで彼はテイレイシアスを呼
び、この事について尋ねます。彼は何故か頑として語ろうとしませんでしたが、
どうしても言うようにと強要しますと、仕方無いという顔をして恐ろしい事実
を告げました。「先王を殺したのは王あなただ。そしてあなたは誰よりも濃い
血でつながる人と恥ずべき交わりを持ったのだ。あなたは自分にかかっている
けがれに全く気付いていない」と。

オイディプスは驚き逆上して、これは誰かの陰謀に違い無いなどと叫びます。
クレオンが駆けつけますが、お前こそ私を陥れようとしているのではないか、
などと罵る始末で手に負えません。その時イオカステは王をなだめようとして、
重大な発言をしました。

「予言などというものを信用してはいけません。昔ライオスはアポロン神殿の
神託でお前は自分の子供の手にかかって殺されるであろうと言われました。し
かし王が殺されたのは山道でどこかの盗賊の手にかかってというではありませ
んか。子供の方も足に釘をさして山に捨てたんです。生きているはずがありま
せん。ライオスは自分の子供に殺された訳ではないのです。予言者の言葉など
お気になさいますな」

オイディプスはその「足に釘をさされた子供」というのに思い当るふしがあり
ました。そして考えてみると自分は山道で男を殺しています。彼はライオス王
の人相などを聞きます。するとどうもやはり自分が殺した男に似ています。彼
は今自分の妻が一体誰なのかということを知りました。

彼はこのショックで発作的に自分の両目を釘で刺してつぶし、王位を捨てて放
浪の旅に出てしまいます。彼は誰もついてくるな、と言いますが、娘のアンテ
ィゴネがだまって付きしたがって行きます。イオカステもショックから自殺し
てしまいます。

放浪を続けたオイディプスはやがてエウメニデスの神域の森にいたってやっと
神から許され、アンティゴネの目の前でゼウスが自ら雷を出して、彼をハデス
の元へ送り届けました。

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以上の物語はソポクレスの「オイディプス王」によるものですが、テーバイ王
家の悲劇はまだ続くのでした。

オイディプスが出て行った後、二人の息子ポリュネイケスとエテオクレスは、
どちらが王位をつぐかでもめ、まずはエテオクレスがポリュネイケスを追放し
て王位につきますが、ポリュネイケスもアルゴスに協力を求めてテーバイに攻
め入ります。この話は「テーバイの七将攻め」として有名ですが、ここでは飛
ばして先に行きましょう。この戦争の結果はテーバイの勝利でアルゴスは敗退
しますが、この時ポリュネイケスとエテオクレスは一騎討ちになって相打ちで
二人とも死んでしまいます。

王位をつぐ者がいなくなってしまったため、クレオンが仕方なく王位にのぼり
ます。彼はエテオクレスの遺体は手厚く葬りますが、ポリュネイケスは外国と
通じて国を危険に陥れたとして、埋葬を許可しません。そこに戻って来たのが
アンティゴネでした。彼女は弟を哀れみ、王の命に反して、妹イスメネと二人
だけでポリュネイケスを弔いました。これをクレオンがとがめますが、アンテ
ィゴネは自分は神の命以外には従わないと言い切ります。しこでクレオンは王
の権威を保つため、彼女に誰も通わない岩の牢屋に閉じ込める刑を与えること
を命じるのです。

クレオンの息子ハイモンはアンティゴネが好きだったこともあり、なんとか王
に思い直すように頼みますが、なかなかクレオンも折れません。しかし予言者
テイレイシアスが、あなたたちは一体何をしているのだ。オイディプス王が出
て行ったあとも、肉親同士の争いごとばかりしているではないか。これでは神
の怒りは解けない、といいますと、やっとクレオンも考え直し、アンティゴネ
を解き放すよう命じます。そこでハイモンは喜んでアンティゴネを助け出しに
向いますが、もう既に彼女は事切れていました。ハイモンは彼女の遺体を抱い
て泣きじゃくり、その勢いで父クレオンに切り付けますが、争う内にハイモン
は自分の剣で脇腹を刺して死んでしまいました。

突然の息子の死に動転してふらふらと宮殿に帰り着いたクレオンを待っていた
のは先に知らせを聞いて悲嘆の末自殺してしまった妻の姿でした。




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