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←↑→ 海の民の物語(1)海賊


 海には陸とはまた違った歴史と価値観が存在している。

 かつて海にはそこを生活の基盤とする者たちがいた。それは海上の家族や
 村、大規模なものは国家のようなものであり、決して地図には書かれない
 領有区域を持っていたのである。その中のある者は領域を侵犯する者から
 遠慮なく金品を強奪したため、こう呼ばれた。「海賊(pirates)」と。

 海賊たちの実態を今に伝える資料は少ない。海賊たちは記録など残さなか
 ったからである。そのため僅かに残る資料は概して略奪された側の陸の民
 の残したものである。そのためそこに書かれている内容は概して海賊たち
 に辛辣である。図書館に行くと、海賊の資料の半数は歴史のコーナーにあ
 るが、半数は犯罪のコーナーに置かれている。これが海賊たちに対する、
 一般的な扱いである。

 ヨーロッパでは古代にはフェニキア人たちが地中海からアフリカ西岸まで
 の地域を支配し海の王国を築きあげていた。そのほとんどは商人たちであ
 ったが、中には乱暴を働く者もあった。後にはペリシテ人たちも海の民と
 なり、エジプト等の沿岸諸国に怖れられる。
 
 しかしBC2〜3世紀にかけてローマが3度にわたるポエニ戦争で地中海の覇権
 をフェニキア人から奪取。しかしローマ人たちの海での活動は地中海の中
 だけに留まり、「ヘラクレスの柱」の先の大西洋にまで出ていこうとは
 しなかった。

 AD800〜1000年頃になると北欧のヴァイキングが大きな活動を行っている。
 彼らはフランスからノルマンディー半島を割譲させ、イギリスの大部分を
 手中に収め、アイスランド・グリーンランドに入植し、ヴィンランド(北米)
 の住民と接触している。

 大航海時代になるとドレークに代表されるイギリスの海賊達が太平洋航路の
 スペイン船から略奪して敵国スペインの勢力を削ぐ活躍を見せ、無敵艦隊を
 撃ち破る大殊勲まであげている。

 近世にはそのイギリス人たちに蹂躙されてしまった太平洋のポリネシア、
 メラネシア、ミクロネシアの住人たちは世界最古の航海者たちである。
 遺跡などから推定される彼らの活動期間はだいたいBC3000〜BC1000年頃。
 彼らは人種系統としてはアジア系であり、日本列島・沖縄・フィリピン・
 インドネシア付近を出発点に、海流にのってタヒチ、イースター島、ハワイ、
 などに広がった。中には南米にまで到達した者もあったとする説もあり、
 南米インディオのルーツはポリネシア人ではないかとする説も結構な説得力
 を持っている。

 その彼らの航海の起点かも知れない日本ではAD3〜5世紀頃には宗像・住吉・
 安曇の民たちが瀬戸内海・玄界灘を支配し、日本と大陸との間の海上交通
 の護衛者として活躍した。住吉・八幡・伊勢などの神も海の民の信仰を
 そのルーツとしている。

 中世には初期の頃海賊と呼ばれた水上の武装集団が後に水軍という美称を
 受け組織化される。彼らの多くが八幡を守護神とし、そこから源氏の子孫
 であると称した。その中でも特に瀬戸内海の村上水軍・九州の松浦党・
 紀州の九鬼水軍などは大きな戦力を持ち戦国時代に盛んな活動を行った。
 また一部の海賊たちは東シナ海を中心に広い活動を行い、周辺諸国から
 倭寇として怖れられている。

 しかし日本の水軍もイギリスの海賊も近世には国家の統制の下に置かれ、
 正規兵力に変化して行く。日本では鎖国の影響もあり水軍は衰退したが、
 イギリスの海兵隊(Royal Marines)はその当時の兵力の正統な末裔である。

 アメリカでも独立戦争の際、海兵隊(Marine Corps)が組織された。この軍
 は現在、陸海空三軍より地位的には下に置かれてはいても史上最強の部隊
 といわれている。

 この部隊自体が陸戦・海戦・空戦といった全てのフィールドにおける戦闘
 能力を有しており、指揮系統がシンプルで非常に高い機動性を持っている。
 議会の承認無しで大統領の命令ひとつで必要なら世界中のどこにでも派遣
 されていく。極めて士気の高い部隊であって、いわば現代の海賊である。



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