近年日本では、恐竜が絶滅した原因は巨大隕石の地球への衝突によるものであるという説が有名になり、これがまるで定説になったかのように思っている人もあるようです。しかし、これは数多くある説のひとつにすぎません。
1980年代に強く主張された、隕石衝突説では、その問題の巨大隕石の落下跡として、ユカタン半島のチチュラブ・クレーターが取り沙汰されました。
隕石衝突説による恐竜絶滅のシナリオはこうです。
確かに近年1991年のフィリビン・ピナツボ火山の噴火でも、成層圏に吹き上げられた火山灰のためその後何年も「真っ赤な夕日」が日本でも見られました。むろん気象にも大きな影響を与えており、1994年などは深刻な米不足が起きて大騒動になったことも記憶に新しいでしょう。(むろん米の不作はピナツボ噴火だけの問題ではありませんが)
1883年(明治16年)のインドネシア・クラカトア火山の噴火の時は世界中で何年にもわたり夜光雲が観測され、かなりの冷害が起きたとされます。
火山の爆発でさえこうですから、巨大隕石の衝突があれが、急速に地球が冷却して確かに変温動物にとっては、とりわけ厳しいものになるでしょう。
しかしその後、チチュラブは隕石の衝突でできたにしては、土砂の中に見付かる鉱物の成分が少しおかしい、ということが指摘されています。
そこで代わって出てきたのはインドのシヴァ・クレーターで、これはチチュラブの倍(面積では4倍)のサイズがあります。巨大隕石がインド大陸に衝突し、その時大陸が現在のインドの部分とセーシェルとに分けられてしまったという訳です。そしてその衝撃があまりにも強すぎて、地球の裏側にも波動が到達し、下から突き上げられる形でチチュラブ・クレーターを形成した、というのが最近の修正隕石衝突説です。
隕石説の弱点
隕石説では説明が苦しいところが数カ所あります。
たとえば基本的な話として、恐竜のように強い爬虫類が絶滅した一方で、どう考えてもそれより弱い存在と思われるトカゲやヘビはなぜ生き残ることができたのか。
また恐竜はそもそも恒温動物だったかも知れないし、そうだったという説が最近強くなりつつある。恐竜が恒温動物であれば、寒冷化してもすぐに活動が緩慢になることはない。寒い中でもエサを探しに行けたのではないか。そして確実に変温動物であるトカゲなどの方が絶滅すべき。
この時期、恐竜だけでなく、アンモナイトをはじめとして多くの生物が絶滅している。これを隕石落下だけで説明するのは無理があるし、絶滅は短期間で起きたことではないようである。
火山活動説
中生代の終わり頃数百万年にわたって、地球上でかなり激しい火山活動が起きていたとされます。火山活動説というのは、これらの激しい火山活動により、地球が寒冷化し、大型生物にとってはエサが確保しづらくなったのではないかというものです。
海底で大量に火山が爆発したことにより海の中の生物であるアンモナイトも絶滅し(絶滅の直前頃にはいわゆる狂い巻きのアンモナイト化石が発見されている)、寒冷化によって海岸線が後退したことで浅海で生活していた水中生物が大量に死んで、海岸近くでエサをとる動物が大量に死に、やがては食物連鎖の頂点に立つ恐竜も絶滅の道をたどることになった、という訳です。
ある意味では隕石衝突説と似たシナリオであり、激しい火山活動でかなり追いつめられていたところに隕石衝突でトドメがさされた、という複合説を唱える人もあります。
しかし、こういった説もまだまだ実証されたものではありません。
その他の説
まず、上記では気候の寒冷化というのをあげたのですが、逆に火山活動や隕石衝突で温室効果が起きて、地球が熱くなったため、という説もあります。
また、その頃哺乳類の先祖が繁殖しはじめ、恐竜の卵を大量に食べてしまったため、恐竜は絶滅したという説も昔からあります。
また種自体に寿命というものがあり、特定の生物はその寿命がくれば自然と絶滅するのだ、という一種の宿命説もあります。しかしこの説では中生代末期にいろいろな生物が同時に絶滅したことを説明できません。
また、恐竜が大量の植物を食べたため、植物に含まれるアルカロイドが大量に蓄積して死に至ったという説もあります。また、気候変化や環境変化によりホルモン異常が起きて性的不能になってしまったという説もあります。この手の絶滅は、人類の歴史においても、民族単位で起きたことがあるかも知れません。
(マヤ文明の滅亡がアルカロイド蓄積によるもの、という説があります。また中世のグリーンランド移民団が「絶滅」の運命をたどっていますが、その最後の時期に属する遺体を解剖すると、女性は異常に骨盤が小さく、とても妊娠が不可能であったろう、という報告もあります)
ほか、論評に値しない説として、「未知の惑星ネメシスの接近のため」、「近くで超新星が爆発し大量のニュートリノが飛来して生物が癌に犯された」、「恐竜に特有の致死的伝染病が起きた」、「ポールシフトにより電離層が消滅し、地球が無防備になって大量の放射線や隕石が降り注いだ」、などなどといった説もあります。一応、話にならない説、ということであげておきます。