かちかち山

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この物語は子供に語って聞かせるには、あまりにも残酷すぎます。


昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは畑に出て種をまいていました。

「一粒は千粒になれ」

と歌いながら。ところがそれを見ていたタヌキが、おじいさんが帰ると畑にやってきて

「一粒は一粒さ」

と言って種を全部食べてしまいました。

おじいさんはいつまでたっても芽が出てこないので変に思っていましたが、あるときそれがタヌキのしわざであることが分かりました。そこでおじいさんは帰ったふりをして、タヌキが出てくるのを待ち、用意していた縄でつかまえました。


おじいさんは、つかまえたタヌキを家に持ち帰り、

「悪いタヌキをつかまえたぞ。タヌキ汁にして食おう」

といって、また畑に戻りました。

家ではおばあさんが、タヌキ汁を作る準備を始めました。タヌキは食われてはたまらんと、何とか逃げようとしますが、どうしても縄から抜けることができません。そこでおばあさんに言いました。

「おばあさん、縄がきつくて痛い。少し緩めてくれないか」

「そんなことしたら、お前は逃げるだろう。お前に逃げられてはおじいさんに叱られる」

おばあさんはそういって仕事を続けます。タヌキは一計を案じました。

「おばあさん、私は悪いタヌキでした。食べられても仕方ない。でも、タヌキ汁を一人で作るのは大変だろう。私が手伝ってあげるよ。そしておじいさんが戻ってくるまでにまた縛られていればいいだろう?」

タヌキはしおらしく、そう言いました。するとおばあさんはすっかりだまされてしまい

「そうかい。だったら手伝ってもらおうかねぇ」

と言って、縄を緩めました。

するとタヌキは、いきなりおばあさんをなぐって殺してしまいました。そして、皮をはいで肉を鍋に入れて煮込みました。それから、おばあさんの皮をかぶって、おじいさんが帰るのを待ちました。


「おじいさん、待ち遠しかったから、タヌキは私が絞めて、タヌキ汁を作りましたよ」

おじいさんが帰ると、おばあさんの皮をかぶったタヌキが言いました。

「おや、そうかい。大変だったろう」

おじいさんは、おばあさんもなかなかやるわい、と思いながら、おばあさんの皮をかぶったタヌキが汁をついでくれるのを受け取りました。

「ちょっと肉がかたいな。やはり古ダヌキだったからかな」

などといいながら、おじいさんは汁を食べます。そしてずいぶん食べた所で、タヌキは皮を脱いで正体を見せました。

「やーい、食ったな食ったな。そいつは俺が殺して入れたばあさんの肉だぜ。ざまぁ見ろ」

タヌキはそう捨てぜりふを吐くと、おじいさんが呆然としている間にさっさと逃げてしまいました。


おじいさんは、ショックのあまり寝込んでしまいました。タヌキにだまされただけでなく、最愛のおばあさんをなくし、しかも知らぬこととはいえ、その肉を食べてしまったのです。

おじいさんが力無く泣いていると、ウサギがやってきました。

「おじいさん、おじいさん、どうしたの?」

おじいさんは、ウサギに全てを話しました。するとウサギは「ひどい奴だ。仕返ししてやる」と言って飛び出していきました。


ウサギはタヌキがよく行く山で、たきぎを拾い始めました。するとそこにタヌキがやってきました。

「ウサギどん、何してるの?」

「今年の冬は寒そうだから、たきぎを拾っているんだよ。君も拾っておいた方がいいよ」

そこでタヌキもウサギと一緒にたきぎを拾いました。

やがてたきぎがいっぱい取れましたので、二人は山を降り始めました。ウサギはタヌキを先に行かせ、後ろにまわって、タヌキの背中の荷物のそばで火打ち石を打ちました。

<カチ、カチ>

「ウサギどん、あのカチカチいう音は何だろう」

「あれはカチカチ山のカチカチ鳥が鳴いているんだよ」

とウサギは誤魔化しました。

やがて火がたきぎに付き、<パチ、パチ>と音を立て始めました。

「ウサギどん、あのパチパチいう音は何だろう」

「あれはパチパチ山のパチパチ鳥が鳴いているんだよ」

とウサギはまた誤魔化しました。

やがてたきぎの火は勢い良く、<ボー、ボー>と燃え始めました。

「ウサギどん、あのボーボーいう音は何だろう」

「あれはボーボー山のボーボー鳥が鳴いているんだよ」

とウサギはまたまた誤魔化しました。

しかし、そのうちタヌキは背中があつくなって「アチ、アチ」と叫んで走って逃げました。


次の日、ウサギは唐辛子味噌を作って、タヌキの家に行きました。

すると、タヌキは「このやろう、昨日はひどい目に合わせやがって!」と怒ります。

しかしウサギは何食わぬ顔で「何のことだい?」と聞きます。

タヌキが「昨日、カチカチ山で俺にヤケドをおわせたろうが」

とつかみがからんかの勢い。しかしウサギは

「カチカチ山のウサギはカチカチ山のうさぎ。唐辛子山のウサギはそんなこと知らんぞ」

といいます。するとタヌキも「もっともだ」と納得。そこへウサギは

「君はやけどをしたのかい?それは可哀想に。そうだ、ちょうど僕はやけどの薬を持っているんだよ。塗ってあげようか?」

といいます。タヌキはすっかりだまされて

「それは助かる。塗ってくれ」

といいました。そこでウサギは持っていった唐辛子味噌を塗ります。するとタヌキはやけどのあとに唐辛子がしみて、痛さで悲鳴をあげました。そのすきにウサギはさっさと逃げました。


次の日、ウサギはタヌキの家の近くの杉山で、木を切っていました。そこへタヌキがやってきました。

「見つけたぞ。昨日はひどい薬を塗ってくれたな」

と怒っています。ウサギが「何のことだ?」と聞きますとタヌキは昨日のことを話しました。するとウサギは

「唐辛子山のウサギは唐辛子山のウサギ。杉山のウサギはそんなこと知らんぞ」

といいます。するとタヌキも「もっともだ」と納得。そこへウサギは

「今木を切って船を作っているんだ。魚でも釣ろうかと思ってね。君も釣らないかい?」

と誘います。タヌキが「面白そうだ」といいますと、ウサギは

「僕は体が白いから木ぶ船を作る。君は体が黒いから泥で船を作るといい」

といいます。タヌキは同意して、泥をこねて船を作りました。

そしてウサギとタヌキは一緒に川に出て釣りを始めました。

ところがウサギの船は木なのでちゃんと浮いていますが、タヌキの船は泥なので、やがて溶けだし、穴があいて沈んでしまいました。

「助けてくれ!」

とタヌキが叫びましたが、ウサギは

「君はおばあさんを殺しておじいさんに食べさせたろう。そのバチが当たったんだと思うんだね」

といい、放っておきました。

かくして、タヌキは川に沈んで死んでしまいました。


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