←↑→ 仮想旅2000(40) 大和(6)

翌11月1日(水)雨。

榛原の宿を出て墨坂神社にお参りします。御祭神は墨坂神。記紀で崇神天皇
の御代に三輪の大物主神が祭られることになった経緯が書かれていますが、
その時にこの墨坂神に赤い楯8つと赤い鉾8つを祭り、大坂神(香芝市の西、
二上山の北付近)に黒い楯8つと黒い鉾8つを祭れとの託宣があったことが
記されています。つまり奈良盆地の東側と西側に栓をして疫病の流入を止め
たのでしょう。従って墨坂の神は三輪の大物主とも縁の深い神ということに
なりそうです。

かなり古い神社と思われますが延喜式には記されていません。延喜式という
文献には時々こういう明らかに古い神社が漏れていることもあります。恐ら
く古すぎて、延喜式が作られた時には朝廷との関連が途切れてしまっていた
のでしょう。

お参りしたあと西へ進みます。分水嶺を越えて、吉隠川に沿って西行します。
宇太水分神社下宮の所で芳野川と合流した宇陀川はそのまま北東に流れてい
き、室生湖の先で室生龍穴神社の方から流れてきた室生川と合流、更に北上
して名張市で青蓮寺川を吸収した名張川に合流、北上して月ヶ瀬湖を作った
あと、なんと木津川に流れ込んでしまいます。吉隠川は長谷寺の所で大和川
と合流してそのまま大阪まで流れていき、大阪南港で木津川と出会います。
川の流れを追い掛けると、ほんとに面白い。

大和川は三輪山の麓も流れますし、上記の墨坂・三輪・大坂の祭祀というの
はつまり大和川水系に沿った祭祀になっているわけです。

榛原から長谷寺の所までが5.8km, そこから桜井市のその三輪山・大神神社
(おおみわじんじゃ)までが7.6kmの距離です。お昼前に大神神社までたどり
つきました。

大物主神の本拠地です。この大物主神がおられる三輪山は奈良三山の鬼門の
方位にあり、事代主神がおられる葛城山は裏鬼門の方位にあります。つまり
大和朝廷初期の時代を支えた二代神裔の本拠地が北東と南西を押さえており、
橿原宮や藤原京などがあった奈良三山の地は強力な神の守護にまもられた地
だったのです。藤原京のあとで作られた平城京はどう見ても、こういう守護
の弱い地です。平安京になるとまた秦氏・賀茂氏による強力な守護の配置が
作られています。ただし京都の賀茂氏は賀茂建角身命(八咫烏)の系統であり、
葛城の賀茂氏は事代主神(えびす様)・味鋤高彦根神(賀茂大神)の系統であっ
て、同じ賀茂氏でも世代の交替があったのでしょう。賀茂氏にはもうひとつ
神功皇后の系統もあります。

藤原京を捨ててわざわざ守護の弱い平城京に移転させたのは藤原不比等だと
思いますが、彼は古い神裔の守る地では藤原家が今後政治の中核に進出して
いくためには不適当だと考えたのかも知れません。しかし藤原家の力が衰え
ている間隙をぬって桓武天皇は平安京に都を移してしまう。その後藤原家は
平安京の裏鬼門に大原野神社を建てています。平安京の鬼門を守るのは比叡
山でここにある日吉神社に祭られているのは秦氏・賀茂氏ゆかりの大山咋神
と三輪の大物主神。ギリギリの妥協が行われたのでしょう。

話を戻して、三輪の大物主神を祭る大神神社は古式にのっとり本殿がなく、
直接御神体である三輪山を拝する形になっています。三輪の祭祀を始めたの
はオオタタネコという人ですが、この人は大物主神の子であるという伝承と
事代主の神裔という伝承があるのですが、これは葛城と三輪の、厳しい勢力
争いを示唆しているのかも知れません。

事代主神を中心とする葛城勢力は神武天皇以降の王朝に関わっており、大物
主神は崇神天皇以降に関わってきます。しかし葛城側も負けていないで雄略
天皇の時に一言主神が出て、また関わりを持っていきます。一言主神はある
意味で事代主神の別魂(ひょっとしたら荒魂か?)的な神です。

オオタタネコを事代主神の神裔とするのは、両者の妥協点を表しているのか
も知れません。本当はやはり大物主の直系なのでしょう。

そのような難しいことはおいておいて、お参りします。この神社には周辺に
多数の摂社があります。それを体力の許す範囲でお参りして回りました。

本当は天照大神が最初に祭られた笠縫邑の檜原神社にも回りたい所だったの
ですが、体力的に不安なのと雨も降っていることから断念。一休みして14時
すぎに三輪山を後にしました。

約6.2km北上して天理市内の大和神社の近くまで来た所で15時半。今日はこの
付近で泊まります。

翌11月2日(木)雨。

大和神社(おおやまとじんじゃ)は大和大国魂大神をお祭りする神社で、併せて
右に八千矛大神(大国主命)、左に御年大神をお祭りします。

元々この御祭神は天照大神とともに宮中に祭られていたものですが、崇神天皇
の御代に託宣があり、これほど強力な神を一緒に祭っていてはいけないので、
他の所に移すようにとのことでした。そのため、大和大国魂大神はこの大和神
社の地に、天照大神は先述の檜原神社の地に移されたのです。のちに倭姫命が
檜原神社の地から更に多くの地を経由して、天照大神は伊勢の地に移されます。

従って元々は伊勢の神宮に次ぐ神威を持った神社でしたが、都が平安京に移さ
れた後は衰微し、江戸時代頃までには悲惨な状態になっていたようです。現在
のように復興してきたのは明治以降のことです。

本殿および多数の摂社にお参りしたあと、北へ4.1km歩いて石上神宮(いそのかみ
じんぐう)に至ります。御祭神は布都御魂大神(ふつのみたまのおおかみ)、布留
御魂大神(ふるのみたまのおおかみ)、布都斯御魂大神(ふつしみたまのおおかみ)、
の三座に、五十瓊敷命・宇摩志麻治命・白河天皇・市川臣命を併せてお祭りして
います。本来は布都御魂大神一座をお祭りしていたものと思われます。

物部一族の本拠地です。他に大伴氏・佐伯氏も関連しており、いづれも大和朝廷
の軍務を司った氏族。御祭神の「ふつ」という音は剣が空を切る時の音といわれ
超強力な軍神です。現在にも伝わる至宝「七支刀(しちしとう,ややつさやのたち)」
は泰和4年(百済の暦で369年)の銘があります。むろん国宝。また今は所在が不明
となっているものの、素戔嗚尊が八俣大蛇を退治した時に使った剣(天羽斬-あめ
のははきり)や、天皇家の三種の神器と並ぶ宝とされた十種神宝(とくさのかんだ
から)がここに奉斎されていました。

千葉県の鹿取神宮にお祭りされている神・経津主神(ふつぬしのかみ)はこの神と
同神であるといわれています。またこの地から幕末に起こった天理教の教祖中山
みきは、この石上神宮関係の祈祷師の霊媒を務めたことがきっかけで神懸かりと
なって病気の治療などができるようになってしまったものです。

お参りしてから北へ12km歩いて春日大社に至ります。時刻は11時。

全国春日神社の総本社です。御祭神は葦原中国を平定した武甕槌命と経津主命、
藤原氏(中臣氏)の氏神である天児屋根命、それに比売神の四座です。これを
総称して春日明神といいます。武甕槌命は茨城県の鹿島神宮、経津主命は
千葉県の鹿取神宮、天児屋根命・比売神は大阪の枚岡神社から勧請したもの
です。神護景雲2年(768)の創建とされていますが、これは非常に微妙な時期で
す。藤原家のリーダーであった藤原仲麻呂は恵美押勝の乱で764年に敗死して
おり、次代のリーダー藤原冬嗣(775生)はまだ生まれていません。藤原家の
勢力が一時的に空白になった時期です。誰がこの創建を行ったのかよく分か
らないのですが、或いは長岡京で785年に殺害された藤原種嗣(藤原薬子の父)
かも知れません。

お参りしてから更に北上します。

10.8km歩いて木津町の岡田国神社に至ります。御祭神は生国魂尊・菅原道真
公・気長足仲彦命・気長足姫命・譽田天皇。現在主祭神は生国魂尊と見られ
ていますが、実際にはこの神社は本来は天神社と呼ばれていた神社で、当然
元々の御祭神は菅原道真公であったようです。

この後行く岡田鴨神社と並ぶ重要な式内社・岡田国神社は現在所在地が不明
です。つまりそれらしき神社が見あたりません。洪水で流された後再建され
なかったのではないかとの説もあります。

ともかくもお参りします。今日はこの木津町で泊まり。

翌11月3日(金)曇り。

朝宿を出てから約8km木津川を遡ります。この付近の木津川は昔は鴨川と呼ば
れていました。賀茂一族が葛城からこの岡田の地に展開してきたことは鴨氏
始祖伝要訣や山城国風土記などに記されています。

その中心が加茂町の岡田鴨神社。御祭神は賀茂建角身命。京都の上賀茂神社
に祭られている神ですが、当然こちらの方がずっと古いことになります。

お参りしてから木津川を北岸に渡ります。半月ほど前にこの川の南岸を石清水
八幡から遡ってきたのですが、今度は対岸を下っていきます。

約8km歩いて山城町の松尾神社。約2.5km歩いて棚倉駅そばの和伎坐天夫岐売
神社。5.4km歩いて山城多賀駅の近くの高神社。6.9km歩いて城陽市の水主神社
へ。今日はここまでで城陽市で泊まり。

最後に訪れた水主神社は式内社の中でも御祭神の数が最大という神社。何と
十座です。天照御魂神(あまてらすみたまのかみ)・天香語山神(あめのかご
やまのかみ)・天村雲神(あめのむらくものかみ)・天忍男神(あめのおしおの
かみ)・建額亦神・建筒草命・建多背命・建諸隅命・倭得玉彦命・山背大国
魂命(やましろのくにのおおくにたまのみこと)の十座。また境内社の樺井
月神社(御祭神月読命)も式内社です。

この神社の意義については明日行く水度神社の所でもまた述べると思います。




(C)copyright ffortune.net 1995-2013 produced by ffortune and Lumi.
お問い合わせはこちらから