G.T.Fechner(1801-1887)は前回述べた、人間の感覚を研究したWeberの弟子
で、物理学や数学を学び、Leibnitz大学で物理学の教授を務めました。
彼はWeberが実験的に割り出した感覚に関する法則を数式的に処理し、刺激
量と感覚量が対数の関係で表される
S = K log R (S=Sinn(感覚), R=Reiz(刺激), Kは定数)
といった公式などを導き出しました。それとともに彼は人間の感覚や精神
活動を測定する時の実験の理論を、物理学者の立場から整理しました。
(0)基本的な問題
何かを調べるときは、一方で一定の刺激(標準刺激)を与え、一方で変化
する刺激(比較刺激)を与える。
(1)極限法
例えば人間の耳に聞こえる最も小さい音を調べる場合、比較刺激を段々
変化させていき、聞こえなくなったところを記録する。
(2)調整法
上記の限界点を被験者本人に調べさせる。
(3)恒常法
比較刺激の量はランダムに与えて、各々が近くできるか調べる。
このような方法論は人間の感覚という極めて主観的なものを科学的に測定 するためのその後の基礎原理となりました。
●ヴントによる心理学の確立
心理学という学問の分野を確立したのはWilhelm Wundt(1832-1920)です。
彼は医学生理学を修め、神経の情報伝達速度の測定をしたHelmholtzの
助手も務めました。1875年にLeibzich大学の教授になり、1879年世界初の
実験心理学研究室を創設しました。
この1879年を「心理学独立の年」としています。
ヴントが開発したのは「内省法」(Selbstbeobachtung)です。彼は心の問題
を研究するには、物差しや天秤で測るのは困難であり、むしろ被験者本人
に言葉で報告させる手法をメインとするべきであると考えました。
ここで初めて心理学は他の自然科学とは異なる手法の実験アプローチの
原理を得ることになります。
一方でヴントは化学などの手法に準じて、心の動きをできるだけ細かい 要素に分解する試みを行っており、この流れを「構成主義」と呼びます。
このヴントの研究室から多くの優秀な研究者が育ち、また世界各地でそれに 刺激されて、多くの心理学教室が生まれました。
●他の流れ
ヴントと同じ頃、同じドイツでもうひとつ作用心理学という流れも生まれ
ています。これは人間の精神的行動そのもの、つまり判断をしたり、愛し
たり、憎んだり、といった行動の原理を把握しようというものでした。
またイギリスではダーウィンの進化論に刺激されて、動物心理学などとい
った分野も生まれ、また一卵性双生児の性格比較などを研究して、個性の
分析をする個人差心理学のような分野も生まれています。