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ここで前回少し話の出た箱庭療法について少しふれておきましょう。
「箱庭療法」の名前は河合隼雄氏が命名したもので、日本人の精神構造に非常
にマッチしたものと思われ、今日遊戯療法とともに盛んに利用されています。
箱庭療法の原型はロンドンの小児科医ローエンフェルトが考案し、1929年に発
表しています。これをユング派のドラ・カルフが発展させ「砂遊び療法」とし
て確立しました。
この療法は各国で独自に発展しているようで、「村作り療法」という形式に発
展した国もありますし、一方アメリカではどういうものが何個置かれたといっ
たことをチェックして「患者を測定する道具」として使われているようです。
いわゆる「客観性」を重んじるアメリカらしいですが、そういうアメリカで今
精神分析そのものがふるわなくなって来つつあるらしいのも納得のいくような
気がします。
日本の箱庭療法の場合はそういう「測定」といったことは考えません。また、
患者に色々助言してまともな箱庭を作らせようという努力もしませんし、余程
ひどい状態になって、続けさせたら危険だという状況でもない限り途中で中止
させることもありません。
ただ箱庭療法で重要なことは、治療者が必ずそばにいて、ずっと見守ってあげ
ているということです。この静かな傍観者が治療に必要不可欠の存在なのです。
箱庭療法では50cm×70cmくらいの大きさの箱に砂を入れ、たくさんの
小道具を用意して、患者に好きなように遊ばせます。
小道具としては、例えば木あり、家あり、人物あり。犬、猫、馬、蛇、等々の
動物、車や汽車や飛行機、怪獣、野菜、色々なものが用意されます。同じ犬で
も幾つかの大きさのものを用意して、できるだけ患者に自由度を与えます。心
理学教室のスタッフは時間の空いたときにおもちゃ屋さんなどを回って適当な
ものを調達してくるのだそうです。
この箱は普通1個しか使いませんが、実際の場においては必ず2個用意してお
きます。患者が2個使ってもいいかと聞けばたいてい許可します。その場合、
2個を使用した大きな箱庭が出来上がります。
箱庭を作る作業というのは、ひとつの宇宙を作り上げる作業です。それは勝手
に「出来てしまう」ものではなく、患者が自らの自由意志に従い、自分のコン
トロールの配下で構成したということに意味があります。
箱庭はその患者の内面を見事に表現しています。たとえば箱庭の中の世界が川
などによって2つに分断されていることがあります。これは心の中にそういう
分断面が存在していることを示唆しています。また家の回りを柵で囲ってしま
う場合がありますが、これは心が他者の侵入を拒否し、防御を求めていること
を表わしています。
箱庭を作るという作業は患者にとって心の中の諸要素を自らの手で整理整頓し
ていく作業でもあります。これが患者の自己治癒力を刺激して、回復を促進す
るのです。
また箱庭で砂が使われていることも重要です。砂と触れ合うというのは大地と
触れ合うということで、いわばグレートマザーの中に退行するのを促進します。
結果、心の深い部分のエネルギーが活性化されてこれもまた治癒力を刺激する
のです。
その為、実際に試しにでも箱庭を作ってみると、自分でも思いがけないものを
置いたりすることもあれば、作っている内に「やった」といった快感を感じる
こともあるといいます。また、何気なく置いたつもりのものが後でよく見ると
大きな含蓄を持っていたりすることもあるといいます。
箱庭作り。これはひとつの創造であり、心の治癒につながる存在なのです。
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