日本国内のウィルス対策ソフトで約4割のシェアを持つ「ウィルスバスター」を制作・保守している会社、トレンドマイクロ(Trend Micro, 趨勢科技)の社長兼CEO、エヴァ・チェン(Eva Yi-Fen Chen,陳怡芬)は1959年2月23日に台湾の台北で生まれました。
台湾の国立政治大学で哲学を学んだ後、国内でスポーツライター兼SF作家として活動していましたが、もっと勉強したいという思いからアメリカに留学。テキサス大学で情報科学修士とMBAを取得しました。
帰国後、AcerでXENIX関係の仕事をしていましたが、1988年に義兄のスティーブ・チャン(Steve Chang, 張明正)がセキュリティ関係の会社を作るという時に「安く使えるスタッフが欲しいから」といわれて参加することになります。
そういう訳でこの会社は当初、エヴァと、スティーブと、スティーブの妻でエヴァの姉であるジェニー(Jenny Chang, 張太太)、エヴァの夫のダニエル(Daniel Chiang, 姜豐年)らにより、ほとんど家族企業のような感じで創業されました。創業当時スティーブとジェニーはアメリカのカリフォルニアにいて、そこが創業の地になっていますが、エヴァとダニエルは台湾で人を集めて作業をしていました。スティーブが社長でエヴァが副社長でした。
会社が最初に作ったのは「ドングル」というプリンタポートに差して使用するソフトの不正コピー防止の器具でしたが、1991年に「ウィルスバスター(日本国外ではPC-cillinの名)」を出してからは、これが同社を代表する製品に成長しました。
会社は1989年に「ロンローインターナショナルネットワークス」の名前で正式に設立されましたが、1992年に「リンク」、1996年に「トレンドマイクロ」に改名されて来ました。ウィルスに24時間対処しなければならない問題と様々な環境で情報を収集しなければならない問題で、ウィルス解析ラボを世界に分散させています。日本・台湾・中国、アメリカ、ドイツ・アイルランドのラボが時間交替で作業を分担して24時間をカバーする方式です。ラボの本部は最近経済成長が著しいフィリピンに置かれています。
なお、1989年には本社を日本に移しました。1999年にNASDAQ上場。2000年に東京証券取引所1部に上場されれました。(証券コード4704) エヴァは1996年まで副社長、1996年から2004年までCTO(最高技術役員)を務めます。CTOの職にあった時期に病気で1年ほど会社を離れていた時期もありますが元気に復帰しました。そして2004年末にスティーブが会長に退くと共に、エヴァが社長・CEOに就任します(2005年1月6日発表)。
(なお、経歴については資料により結構異なる。多国籍企業なので、どこの国のCTOになったのか云々で混乱している模様)
その新社長になったエヴァをいきなり襲ったトラブルが2005年4月23日に公開されたウイルスパターンファイル2.594.00の問題でした。不幸な偶然の積み重ねによるチェック漏れでこのパターンをインストールしたマシンがダウンするというトラブルが全世界で発生します。ウィルス対策製品自体のバグが恐ろしい影響を与えるという実例を知らしめることになりましたが、またウィルスバスターが本当に広い範囲で使用されていることが確認された事件でもありました。このパターンが公開されていたのは日本時間で同日の朝7:33〜9:02のわずか1時間半でしたが土曜日であったにもかかわらず日本国内だけで650社ほどの企業でトラブルが発生しました。
事件を重く見たエヴァは台湾から即日本に駆けつけ、記者会見を行いましたが、この事件のおかげでトレンドマイクロの社長がこんな美人の女性だったとはというのが多くの人の知る所となりました。そして自分の給料を当面このパターン番号にちなんだ594円に下げるということを言明、また利用者に対するお詫びとして使用権を無条件に1ヶ月延長。また新しい版のテストをする体制を再編成しより厳しいチェック体制を築いたことなどは比較的好感されることとなります。
そしてウィルスバスターはその後も売り上げを伸ばし、2006年秋には日本国内のセールスでノートンを抜いてトップシェアに躍り出ました。