推理作家・和久峻三(本名・滝井峻三,別名・夏目大介)は1930年(昭和5年)7月10日、大阪で生まれました。京大法学部を卒業後、中部日本新聞社の記者をしていましたが、その後司法試験に合格して弁護士となり、京都に弁護士事務所を開きました。
1960年に「宝石増刊」に「紅い月」を発表して作家活動も本格的に始め、1972年に「仮面法廷」が第十八回江戸川乱歩賞を受賞。1988年には「雨月荘殺人事件」で第四十二回日本推理作家協会賞を受賞しています。
代表作ともいうべき「赤かぶ検事」シリーズは1975年から書き始められており、フランキー堺の赤かぶ検事(柊茂)役でテレビドラマとしても人気を博しました。テレビでは毎回のように柊茂と娘の弁護士・柊葉子との法廷対決が行われていましたが、原作ではそう何度も起きているものではありません。
彼の作品はさすがに本物の弁護士だけあって正確な法律の知識と解釈がベースにあり、推理ファンとしても、そばに六法全書とコンメンタールを置いて、じっくり読みたい良質の作品です。
もうひとつの代表作「京都殺人案内」シリーズはテレビドラマでは音川音次郎刑事に必殺仕事人シリーズの「中村主水」のほうが本人の名前よりよほど有名になってしまった藤田まこと、娘の洋子に萬田久子を配して、渋い作りに仕上がっています。藤田は「はぐれ刑事」シリーズの安浦吉之助も好演しており、現代刑事劇でも充分な才能を発揮しています。
なお、和久峻三は、法律家、推理作家という側面以外に、写真家としての側面も持っており、1993年に出した写真集「日本の原風景」は日本図書館協会選定図書になっています。本当に多才な人です。