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(19)空洞化とオフショア

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現代では多くの大企業が国境を越えて国際的に活動しています。ソニーや松下
は世界中で商品を売っていますし、ホンダは北米で2万人もの従業員を雇って
現地で車の生産をしています。IBMやヒューレット・パッカードなども全世界
でコンピュータを売っていますし、そもそもパソコンのCPUは、ほとんどが
インテルかAMDの製品です。丸紅や伊藤忠などの総合商社は最初から世界を股
にかけて商売をしています。ボーイングやロッキードなども最初から世界を
相手の商売をしています。

企業がこのように「多国籍化」していった場合、その企業はいったいどこの国
に税金を支払うかという問題が生じます。巨大産業の課税をめぐっては各国の
綱引きも激しいのですが、企業としては出来るだけ税金は安くしたいので、で
きるだけ税率の小さな国で利益を申告しようとします。

かくして船などはリベリア船籍の船ばかりになっている訳ですが、大きな資金
を運用する時も、できるだけ税金のかからない所ということでオフショアに
大きな資金を置いている企業はよくあります。オフショア(off-shore)という
のは、海岸から離れた所という意味で、そこは国内ではあるが、海岸から遠い
から「まあ厳しく国内法を適用しなくてもいいか」と放置されている場所です。

有名なのがイギリスのマン島やカリブ海のケイマン島などで、税金がかからな
いということから、その小さな島の中に多数の銀行があり、物凄い金額のお金
がそこで動いています。そしてこういう場所に子会社を設立して、様々な資金
運用をしている企業が大企業だけでなく、中小企業などにもあるのです。

香港もオフショアとみなされることが多く、日本の企業や、少し小金を持って
いる人たちが、香港の銀行口座を利用して資金運用をしています。もっとも
オフショアの重要な条件としての政治的安定性という面では香港は若干の不安
もあるため、大きな資金を動かしたい人はやはりマン島などに行くようです。

しかしオフショアで動かしている資金は外からは見えにくいので実態が分から
ないこともあります。先日まで中田英寿が在籍していたパルマの親会社の場合、
ケイマン島に40億ユーロ(5000億円)の資金を置いていることになっていたのに
調べてみたら、そんな資金は存在しなかったということで大騒動になりました。

さて企業は税金の安い所に利益を移す以外にもうひとつ重要な移転をします。
それは労働力の安い所に生産拠点を移すというものです。現在国と国との通貨
の為替の交換は、その国の経済的実力に応じて決まるため、経済的弱者である
国の通貨は安く評価されてしまい、その結果為替交換ベースで計算すると、
弱者の国では物価も労働賃金も、強国に比べてひじょうに安いということに
なります。そこで、企業は積極的にそういう国に進出して現地の人たちを雇い
様々な製品の生産をします。

しかしこれが進みすぎると、経済的強国であったはずの国では雇用機会が少な
くなるようになり、雇用不安が起きて不況を引きおこすのです。これがいわゆる
「経済の空洞化」というもので、アメリカでは1970年代頃以降これが大きな
問題となってきました。日本でも生産拠点を東アジアの様々な国に移している
企業は多く空洞化は進んでいるのですが、日本の場合はうまい具合に新しい
産業形態の創出が進み、出て行った分を何とか補い、一時期のアメリカほどの
ひどさにはなっていません。

しかし空洞化を食い止める唯一の手段は、国が企業の税金を安くすることしか
ありません。しかし日本では1960〜1970年代、一部の無責任な野党が、所得税
の減税による税収の減少を補うために企業の事業税を引き上げろと主張してい
た時期があります。しかし政府は賢明にもそういう方向ではなく、薄く??広く
課税する消費税の創設という方向に強引に持っていきました。これも空洞化の
行きすぎに歯止めを掛けるのに大きな効果があったといえます。(消費税とい
うものは最終的な消費者だけが負担するので、途中の再販者の負担は無い。)

ただ本当はもっと官庁・公団などのリストラを進める必要もあるのですが。
根本的に国や自治体の無駄を減らさなければ、税金を実質的に減らすことは
不可能です。そしてそれがうまく行くかどうかが日本の運命を握っています。


(2004-03-17)

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