

(16)お金持ちになりましょう?
表題は3年ほど前に韓国で流れて話題になったCMで、一種の流行語になったよう
でこのことばは現在googleで(韓国語で)検索するとかなりの数ひっかかります。
韓国語で実際にどう書くかはこのメルマガはunicodeを通してくれないので、
こちらに上げておきました。
韓国は1997年に深刻な経済危機に見舞われました。発端はタイで、タイ国内の
産業に短期の投資をしていた外資が、思ったほどの経済成長が無いとして同年
夏ごろ、一旦投資を引き上げようとしたことが出発点です。そのためバーツの
売り圧力が高まり、タイ政府はこれに耐えきれず、それまでの固定相場制から
変動相場制に移行。バーツの相場は暴落しました。すると東アジアの他の国に
投資していた投資家も、急に不安を感じて同様に投資を引き上げようとした所
インドネシアや台湾、韓国などまで為替相場の暴落が起きます。韓国もやはり
変動相場制への移行を余儀なくされました。ここで、為替相場がたとえば
1ドル700ウォンから1ドル1400ウォンに急落した場合、ドルで借りている外国
からの借款がいきなり倍になってしまうことになります。借金が突然増えて
しかも外国からの投資自体を引き上げられてはたまりません。韓国は破綻する
企業が相次ぎ、絶不況に突入してしまいました。
これを1997年の「アジア通貨危機」と言っています。韓国は緊急にIMFに支援
を要請して何とかこれをしのぎますが、IMFからは融資の条件として内需の
拡大を要求されました。しかし世の中は絶不況。拡大のさせようがありません。
そこで韓国政府が取ったのが、クレジットカードの普及政策だったのです。
まずそれまであった金利の上限を撤廃することにより、貸金業者の営業がしや
すいようにして、国民にはクレジットカードで買物をした分について税金が
安くなるようにしました。(*1) 更に企業にはクレジットカードで払わなかっ
た接待費は経費として認めないとした(*2)ほか、個人事業主にはクレジットの
売上分について売上税の軽減処置まで行いました。
(*1)(クレジット購入額−年収の1割)×0.2 を課税所得から控除する
(*2) これには、接待費の架空計上を締め出す対策もあった。
この結果、韓国では多数のクレジット会社や貸金業者が激しい顧客獲得競争
をして短い期間に国民ひとりあたり2〜3枚ものクレジットカードが発行される
に至ります。中には無収入の学生にも無審査でカードを発行する所もありました。
冒頭の「みんな金持ちになってください」などというCMも、カード持って
いれば何でも買えますよ、という宣伝文句であった訳で、そういったテレビ
CMだけでなく、街頭での激しい勧誘、様々な景品の提供。多くの韓国国民は
訳が分からないまま「魔法のカード」を持たされ、ふと気付くと、とても
払いきれないくらいの請求書の山に沈んで途方に暮れてしまったのです。
この過剰な信用販売による個人の破綻は2002年頃から問題になり、韓国国会
は金利の上限を70%にするとともに、政府は貸金業者にきちんとした与信調査
をしてから契約するよう強く指導しはじめました。しかしいったん苦境に陥っ
た国民の個人の経済状況はそう簡単には改善されず、現在韓国には360万人
ほどのブラック(延滞状況が続いている人)と、ほぼ同数程度のその予備軍が
いるといわれ、実に労働人口の3割ほどが背負いきれない借金に苦しんでいます。
かくして韓国は1997年の危機は乗り切ったものの、その後のあまりにも
大きなツケに苦しむ、絶不況の中にあるのです。ちょうど10年前の日本と
同じで、とにかく国民は返済に追われて消費に回すお金がないので、いくら
物を値下げしても売れないといった状況が続いており、これから脱出する
のには、かなりの荒療治もやる必要が出てくるでしょう。
ほんとうにこの状況は10年前の日本と似ています。日本でも1980年代末期
に限度を超えたクレジットカードの発行や投資ブームで、まさに「みんな
お金持ちに」という雰囲気があったものの、1990年代初期にそれが一気に
バブル崩壊となります。しかしバブルの崩壊したての頃から、逆にクレジッ
ト会社や消費者金融の営業宣伝は激しさを増し、無人契約機の導入やTVCMの
解禁などで、1994〜1995年頃まで個人信用の貸付残高は増える傾向があり
ました。しかしそれ以降はさすがにみんな借りることのできる人は限度まで
借り切ってしまい、しかもそのさなかに消費税が上げられたことから消費
マインドは冷え切り、貸金業者・信販会社でも行き詰まる所が多数出始めま
す。そしてそういう所に投資していた銀行まで倒産が相次ぐ事態へと進んで
いくのです。
日本は大きな雇用不安を生みながらも厳しいリストラで企業の体力を回復
させ、またかなりの痛みを伴う構造改革が進められ、それとともにIT関係
を中心に投資が継続されたこと。1990年半ばころ以降個人で破綻する人が
かなり破綻し切ってきて、破綻予備軍の数が減るとともに、破産を選択した
人は免責後、堅実な生活で復帰してきていること、そして100円ショップに
代表される安売りショップのおかげで、安いものであれば消費者が買うよう
になってきて消費マインドが少し回復してきていることから、ようやく
トンネルの出口だけは見えてきた感があります。
韓国もまた似たような道を歩むことになるのでしょう。いづれにせよ基本は
やはり「実態経済を成長させる」ことしかありません。それはとても地道な
努力ではありますが、輸出に頼ったり、信用販売に頼ったりしていても、
それは儚い、束の間の夢を与えてくれるだけにすぎないのです。
(2004-03-14)



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