日本史の中の女性(10)紫式部と清少納言

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written by Lumiere on 96/09/05 13:29
称徳天皇の後、皇位は再び天智天皇の血筋に戻り、桓武天皇は都を平安京に移 して平安時代が始まります。藤原家にも優秀な人材が続出、中でも道長・頼通 親子の時代には安定した権力構造ができていました。

その中で宮中には何人もの優秀な女性の作家や歌人が出現、中でも評価の高い のが清少納言と紫式部でした。

この二人は一条天皇の別々の妃に仕えました。一条天皇(980-1011)は最初この 時代にしては珍しく純愛で結ばれた藤原道隆の娘の定子(977-1000)を皇后にし ますが、ここに道長が割って入り、強引に自分の娘の彰子(988-1074)を中宮と して入内させ、一天皇二后という異常事態を引き起こすのです。

時に長保2年(1000)2月。前年父の道隆が亡くなり、兄の伊周と弟の隆家もさ さいな事件の責任を問われ九州・出雲に流されていました。しかし定子は天皇 の愛を何よりもの頼りとし、修子皇女と敦康皇子というふたりの子供にも恵ま れて、何とか持ちこたえます。一方の彰子はまだ12歳ですから、形ばかりの 妃、道長の圧力は日増しに強くなります。しかし天皇の愛はただ定子のみにあ り、定子は懐妊、道長のいらいらはつのります。

しかし、定子はこの妊娠で第2皇女美子を産むと同時に24歳の若さで亡くなっ てしまい、一条天皇の純愛は終わりを告げ、道長の時代が始まるのです。彰子 は二人の皇子を産み、道長の力によって、この二人はいづれも天皇になります。

しかし彰子は亡きライバル定子を憐れみ、また自分が定子を死に追いやってし まったような罪悪感にとらわれ、定子の遺児たちを非常に大事に育て、特に敦 康皇子をぜひ皇太子にと父道長に誓願するのですが、当然道長は聞き入れませ んでした。

さて、この定子に仕えたのが清少納言、彰子に仕えたのが紫式部でした。定子 ・彰子が対立していたのはほんの1年程度ですので、清少納言と紫式部の対立 というのも一般に思われているほど長い時間ではなかったと思われますし、実 際には二人は一度も会ってないのではないか、という説もあるようです。

この二人の性格は対照的で、漢文が得意ではきはきした文章を書く清少納言に 対して紫式部は和文が得意で、その代表作も清少納言が随筆の枕草子、紫式部 は小説の源氏物語です。また紫式部は和歌の才能もあったのに対して、清少納 言の方は極端に下手で、定子から「あなたは和歌は免除しますから」とまで言 ってもらったというか言われていたとのことです。もっとも和歌集に彼女の歌 は15首ほど残っていて、その中には次の超有名な歌もありますので、全く書け なかったという訳でもないようです。

夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも より逢坂の 関はゆるさじ

清少納言は主を失った後は宮から下がり、普通の生活をしていますが、暮らし は苦しく、晩年の頃は食うにも困るほどであったといわれています。

紫式部の方は藤原北家の傍系の生まれで、又従兄の藤原宣孝と結婚、女の子を ひとり産みますが、宣孝は他の女の所にもせっせと通い、式部は夫を何度も恨 みます。しかしその宣孝はぽっくりと病死、紫式部は何か心に穴が空いたよう になり、その空白を埋めるために源氏物語を書き始めたといいます。

そして4年後の1005年、式部は宮中に出て彰子に仕えます。紫式部は970年生 まれとされていますので、彰子より18歳上。17歳の彰子の目には頼りがいのあ る女房と映ったことでしょう。源氏物語は宮中でも評判になり、道長などは続 きが気になって仕方なく、ある時は勝手に紫式部の部屋に入ってきて書き掛け の原稿を持って行ってしまうなどということもあったと言われます。

この源氏物語の主人公自体、藤原道長がモデルなのではないかという説もあり ますし(なお、彰子が住んでいた所が藤壷)、また紫式部は道長の愛人だった のではないかという説までありますがどのようなものでしょう。源氏物語の他 「紫式部日記」・「紫式部集」などを遺しており、また和歌集には彼女の歌が 59首入っています。有名なものには

めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲かくれにし 夜半の月かな

などがあります。微妙な心を歌っていますね。

紫式部は1013年頃、一度道長の不興を買って彰子の元を辞していますが、その 後、後一条天皇の即位に続いて1018年彰子の妹の威子がその皇后に立つという 時期に手が足りなくなって古女房がかなり召し出され、この時紫式部も復職し たと推定されています。この後のことはよく分かりません。結果的には自分が 死ぬ直前くらいまで彰子に仕えたのではないでしょうか。紫式部の死は1020年 頃ではないかと推定されています。


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