占星術を始めた初心者の方がひじょうに戸惑うことのひとつは、ハウスの分割方法に実に様々な流儀があることでしょう。いったいどの方法を使えばいいのか、初心者のうちは見当もつきませんし「自分で合うと思うものを使って下さい」などと言われても、そんないいかげんなという気がするでしょう。頭に来て「ハウスなんか使わないぞ」と言い出す人もいます。
が短気を起こす前に、まずは基本を押さえましょう。何を使っていいか分からない人は。。。。
という話をする前に重要な問題を1点あげておきます。
■東京の室項表で代用してはダメ!!
占星術をコンピュータの無い時代に勉強した人は教科書の付録の天文暦を見て手計算でホロスコープを出していたと思いますが、その時ハウスの境界については「室項表」という表から取っていたと思います。それが昔の教科書ですと、東京の室項表しか付いていないものが多く、日本のどこで生まれた人でもこの表で計算していた人もあるかも知れません。
しかしハウス境界を計算するには緯度を使用しますので、同じ時刻に同じ経度で生まれても千葉の人と函館の人、また沖縄の緯度の人と長崎の緯度の人ではまるでハウス境界は変わってきます。東京の室項表で代用してホロスコープを作成することは、誤判断の元となりますのでやめましょう。緯度ごとの詳しい室項表をここに掲示してもいいですが、今ではみんなパソコンや携帯電話でホロスコープは作れますので、それを利用して下さい。
■お勧め!分からなかったらこれを使え!!
考えるのが面倒だ、何がいいのか分からん、という人は「コッホ」を使いましょう。最近最も利用者が増えているものであり、比較的高緯度のヨーロッパなどでも使用可能なハウスシステムです。
ということで「OK。自分はそれを使う」という人は、以下は読まなくて大丈夫です。以下の話を読んで悩む時間があったら、その時間で少しでも多くのホロスコープを読む練習をしたほうがマシです。
■最も単純な分割 キャンパナスとレジオモンタナス
ハウス分割の中で、最も単純な分割法は、地平面を基準にして、単純に物理的に方位を12等分したものです。この方式の分割としては「レギオモンタナス(Regiomontanus)」と「キャンパナス(Campanus)」が知られています。どちらも物理的に12分割したものですが、レギオモンタナスがカスプをハウス境界にするのに対して、キャンパナスの場合はカスプがハウスの中央に来るように、カスプとカスプの中点(ミッドカスプ)でハウスを分割します。キャンパナスの考案者はGiovanni Campani Campanus (1233-1296), レギオモンタナスの考案者はJohann Muller Regiomontanus(1436-1476)です。
キャンパナスは小曽根秋男氏が以前「立体分割」の名前で流布させたものと同じ方式であり、なんといっても幾何学的に美しいことと、実際に使用した場合の的中率の高さから多くの支持者があります。現代占星術の旗手のひとりDane Rudhyar(1895-1995)もこのキャンパナスを愛用していました。
※正確にいうと、キャンパナスは空間を等分する時に、その地点の卯酉線(東西を結ぶ線,Prime Vertical)に沿って等分するのに対して、レジオモンタナスは本来は天の赤道に沿って等分しますので純粋な空間等分ではありません。しかし近年ではキャンパナスと同様に卯酉線によって等分する変形レジオモンタナスが、レジオモンタナスの名前で広まっています。
■以前利用者が多かった分割 プラシーダス
19世紀に刊行が始まったラファエルの天文暦がこの方式を採用したこと、現代占星術の祖であるアラン・レオがこの方式を愛用したことから、一時期は占星術をする人のほとんどが使用していたメジャーなハウスシステムですが、近年はコッホの利用者が増えたことから利用者数は減っているものと思われます。
Placidus de Titis (1603-1668) が考案したもので、18世紀のフランシス・ライトが紹介してから使われるようになりました。9世紀のシリアのMuhammad JabirとGeber al-Bataniが使用していた方法の改良版になっています。空間的に分割するのではなく時間的に分割する方法です。
11室カスプ位置 α = s + arccos(-sin(α)tan(ε)tan(φ))/3.0 である点。 12室カスプ位置 α = s + arccos(-sin(α)tan(ε)tan(φ))/1.5 である点。 2室カスプ位置 α = s + 180 - arccos(sin(α)tan(ε)tan(φ))/1.5 である点。 3室カスプ位置 α = s + 180 - arccos(sin(α)tan(ε)tan(φ))/3.0 である点。この方程式は実は数学的に解けないため、計算は漸化式によらねばならず、現代のようにコンピュータのない時代にはおそろしく手間のかかる計算方法だったのではないかと思われます。
■近年人気上昇中のコッホ
プラシーダスの欠点は、高緯度地方で使用すると夏と冬に日照時間が極端に短くなったり長くなったりするために、時間分割したハウスのサイズが極端にいびつになり実用にたえないことです。その欠点を改良したのがコッホで、近年最も人気の高いシステムです。考案者はWalter Koch (1895-1970) で、時間を等分して作成したチャートのアングルをハウス境界とするという、単純明快な方法を採用しています。やはりSimple is Beautiful!です。この方法は出生地の緯度が密接に絡むため出生地方式と呼ばれることもあります。
この方法は15世紀にレジオモンタナスが登場する以前に主流であったAlChabitusと呼ばれる方式の改良版になっています。AlChabitusは12世紀の人ですが、実際には9世紀には既に使用されていたことが知られています。
■手計算時代の主役 イコールハウス
最も単純なハウス分割であるキャンパナスにしても、三次元の座標を二次元に変換する際に三角関数の計算が必要です。そのため、こういう計算はとても手計算では不可能ですので、パソコンを今のように誰でも使えるようになる以前は、簡便な方法として、イコールハウスという荒っぽい分割が行われていました。
これはハウスを黄道上で12等分してしまうというもので、ASCの位置さえわかれば、後は30度ずつでハウスを切っていれば良いので合理的なようにも見えますが、ハウスというものが方位をとらえるものであることを考えると、かなりサイン寄りのハウスで、あまり好ましいとは思えません。そしてこの方法の最大かつ致命的な欠点は、MCが10ハウスに入らないことがある、という非常に困った問題です。
イコールハウスは現代占星術の旗手のひとりであったMargaret Hone(1892-1969)が愛用していたことで知られます。
■実は昔からあった改良法 ポルフュリオス
イコールハウスの計算法はヘレニズム時代から知られてはいたのですが、使い物にならないというのもまた良く知られていました。そこでその改良法として考えられたのがポルフュリオスです。ポルフュリオス(Porphyrius,232-304)が考案したということでこの名前があるのですが2世紀には既に使用していた人がいました。
これはASC,IC,DSC,MC の間を各々三等分するという方法で、イコールハウスの最大の欠点であるMCが10ハウスに来ないという問題を回避しています。アバウトな方法ではありますので、たまたまハウスの表もパソコンや携帯電話も持っていなかったら使ってもいいという程度ではありますが、どうせハウスなんて方式によって分割が違うじゃん、という発想でいくと、意外に使える方法かも知れません。しかし日本ではなぜか知名度の低い方法です。
■東洋占星術に伝わる手法 ホールサインハウス
ハウスの概念がしっかり確立してくる以前には、ASCが所属するサインをそのまま第一ハウスとし、そのあとサイン単位で30度ずつハウスを区切っていく手法が使用されていました。これをWhole Sign Houseといいます。インドや中国の占星術ではこの使用が現在も使用されており、西洋でも8世紀頃まではこれが主流のハウスシステムでした。それなりに意味のある方法ではないかと思います。
■その人の本来の運命を見る? ソーラーハウス
古代ギリシャでは、その人の本来の運命は、太陽がASCの位置にあった時のチャートで表されるという考え方があり、それにもとづいて、太陽の所に第一ハウスの先頭を持ってきた特殊なハウスシステムがSolar Houseです。私はこの方法を「出生時刻が分からない時のための手法」と紹介したことがあるのですが、確かに出生時刻が分からない時にも使用できますが、このハウスシステムにはそれ以上の深い意味があります。
■こちらがソーラーの本家?? ソーラーサインハウス
ソーラーハウスをホールサイン方式にしたものです。つまり出生時の太陽がある場所を第一ハウスの始点にするのではなく、太陽が所属するサインをそのまま第一ハウスにするものです。昔はホールサインが多かったことからすると、ひょっとするとこちらのほうが本家かも知れません。
■ちょっと変わった赤道分割法 モリヌスとメリディアン
これは実際使用している人は少ないと思いますが、赤道で12等分するという手法があります。Morin de Villefranche(1583-1656)が考案したMorinusと、1950年代に考案されたMeridianという方法です。両者は赤道から黄道への変換の方式が違っています。
Morinus →赤道上の分割点から黄道に降ろした垂線の足を使用する。
Meridian→赤道上の分割点に立てた垂線が黄道と交わる点を使用する。
となっています。
■特定の問題に有効なトポセントリック
トポセントリックハウス(Topocentric house)日本ではあまり使用されていないようですが、計算がシンプルな割に意外と使えるとして、海外では特にプラシーダスの代替ハウスとして利用している人もあるようです。これはASCの計算式で、緯度と恒星時の代りに次のものを使ってカスプを得たものです。
11室カスプ位置 緯度 arctan( tan(φ)/3 ), 恒星時 s-60゜
12室カスプ位置 緯度 arctan( 2・tan(φ)/3 ), 恒星時 s-30゜
2室カスプ位置 緯度 arctan( 2・tan(φ)/3 ), 恒星時 s+30゜
3室カスプ位置 緯度 arctan( tan(φ)/3 ), 恒星時 s+60゜