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第7章 軌道要素と惑星位置概算

【座標と観測点】
さて、いよいよこのプログラムの処理の中核(?)である惑星の位置計算の問題に入って
行くが、その際、色々な地点を観測点(中心点)にした座標系が出てくるので、
これを少し整理しておこう。

(1)地心黄道座標と日心黄道座標
黄道は地球の公転面であるから、地球と太陽の両者をその面の中に含んでいる。そこで
地球を中心にしても太陽を中心にしても自然な座標系が成立する。これが地心黄道座標
系と日心黄道座標系である。両者の変換は空間上で地球→太陽のベクトルを加減する
ことだけで得られる。

例えば、日心黄道座標で(λ0, β0),動径がr0の惑星を地心座標に変換するには、
これを方向余弦
(r0・cos(β0)cos(λ0), r0・cos(β0)sin(λ0), r0・sin(β0)) に直し、

太陽の黄経・動径をλs, rs とすれば、地球→太陽のベクトルが
(rs・cos(λs), rs・sin(λs), 0 )になるのでこれを加えて

(r0・cos(β0)cos(λ0)+rs・cos(λs), r0・cos(β0)sin(λ0)+rs・sin(λs), 
  r0・sin(β0))

これからいつものやり方で、地心動径・黄経・黄緯が出てくる。

(三角関数を書くと難しく見えるが、実はこの通り高校の数Iの内容である。)

※厳密な計算をする場合は本当は太陽の黄緯(!)を考慮しなければならないが、この
 プログラムの精度では、無視して全く構わない。

(2)地心座標と地表座標

地球の中心と表面は約6400km離れているので、厳密な計算をする場合は、地心
で求めた星の位置を地表の座標に変換する必要がある。この処理が実際に必要なのは
月の場合くらいで、特に日食の予測計算などをする場合は絶対に必要であるが、
(日食は地域によって見える所と見えない所が出てくる)このプログラムで処理して
いる程度の精度では、余り問題にならないものと思われる。やる場合の要領は上記と
同じように地表→地心のベクトルを加減すればよい。


【軌道要素法と2体問題について】
天体の位置のもっとも大まかな概算位置を得る方法として知られているのは軌道要素
に基づく計算法である。これは惑星の運動を太陽とその惑星の2体問題として捉えて
計算する方法である。

2体問題というのは、空間上に2つの質点(質量を持つ点〜この場合具体的にはその
惑星と太陽)のみが存在すると仮定した時に、ニュートンの万有引力の法則から導か
れる運動の状態のことである。これは万有引力の法則 F=GMm/R^2  を数式的
に解くことによって簡単に導くことができ、質点の軌跡は楕円・放物線・双曲線の
いづれかになる。(高校程度の数学の知識があれば十分解けるので、興味のある方は
やって見ると面白い。)

しかし、実際には空間には無数の物体が存在しており、その各々の間で引力が働くので
惑星の運動は実際は2体問題からは大きく外れる。更に水星のように速度の速い星では
相対性理論による効果も考慮しなければならない(万有引力の法則が厳密に成立しなく
なる!)。なお、たとえ万有引力の法則が成立すると仮定しても、質点が3つ以上ある
場合の運動の状態は数式的には解くことが出来ないことが証明されている。

従って、軌道要素からの計算は極めて短期間に極めて大雑把な位置を算出するのにしか
使えないと考えた方がよい。しかし、その大雑把な位置でも良いから出したい時には
簡便で有用な方法である。

【楕円について】
楕円は数学的には2つの点からの距離の合計が等しい点の軌跡として定義される。
この2つの点を楕円の焦点という。2つの焦点の中点が楕円の中心になる。楕円の
直径の内、2つの焦点を通過するものが最も長い。これを長径、その半分を長半径
という。又、直径の中で最も短いものは、長径に直交するものであり、これを短径、
その半分を短半径という。

楕円の長半径をa、短半径をbとし、楕円の中心と焦点との距離をsとするとき、
e=s/aを楕円の離心率(eccentricity)という。離心率は定義から明かな通り0〜1
の数であり、これが小さいほど楕円の潰れ方も小さい。特にe=0の時は円である。

このとき、「2つの焦点からの距離の合計」とは実は2aに等しい。また、

s^2 + b^2 = a^2,  s = a・e,  b = a・sqrt(1 - e^2)  となる。

s,bはaとeから上記のように算出できるので、通常楕円の形状を指定するには
aとeを指定する。

【楕円軌道と補助円】
惑星の軌道要素を説明する為に、平均近点離角という概念を導入する。これは絵が
無いと分かり難い概念なので、この説明を読みながら自分で図を書いて理解して
頂きたい。

まず惑星Pが太陽Sを焦点とする楕円軌道を描いて運動している所を考えて頂きたい。
楕円の中心をOとし、楕円の長径が楕円と交わる点の内、太陽S側の交点をAとする。
今、Oを中心とし、半径がOAの補助円を描く。そして、惑星Pを通り、楕円の長径
に垂直な直線を引き、この直線がP側で補助円と交わる点をP1とする。

Aは惑星Pが太陽Sに最も近付く点なので近日点と呼ばれる。

さて今Pと同時にAを出発して、補助円の上を一定の速度で通り、Pと同時にAに
戻ってくる仮想の惑星を考え、これをQとする。Qの速度はPの公転周期をTとする
とn=2π/Tで与えられ、これを惑星Pの平均運動という。 さて、ここで、

M=翌pOA を惑星Pの平均近点離角
u=翌o1OA を    離心近点離角
v=翌oSA を    真近点離角

という。uが分かると惑星Pの位置は直交座標の値で

x=a・(cos(u)−e)
y=a・sqrt(1−e^2)・sin(u)

で求めることができる。Mはある基準点(元期という)における惑星の平均近点離角
M0が分かっていれば、元期からの経過時間をtとして、平均運動nから、nt+M0
で求めることができるから、惑星の位置を計算する処理の中核は実はMからuを求める
ことである。

Mとuの関係はケプラーの法則によって u−e・sin(u)=M  という関係が成り立つ
ことが分かる。これをケプラーの方程式と呼んでいる。

【ケプラーの方程式を解く】
さて、おもむろに方程式を出して来たが、実はこの方程式は数式的には解けないので
ある。そこで数値的に解く必要がある。この解き方は古来多くの人が色々な方法を
考えて来たようであるが、このプログラムで使用しているのは、次の漸化式による
方法である。

uの近似値u0が与えられてとき、

   u1=u0+(M−u0+e・sin(u0))/(1−e・cos(u0))

でu1を求める。この操作をくり返して行くと、わりと速くuの値は収束する。

なお、u0の初期値としては、Mを使ってよい。

【惑星の軌道要素】
今までの議論からも想像が付く通り、惑星の軌道を決定する要素として必要なものは
まず軌道の長半径aと離心率e、それから元期における平均近点離角M0である。

しかし、これだけではまだ惑星がどこにあるのかが分からない。それは惑星の軌道
自体の位置関係を明かにする必要があるからである。

その為の要素として、まず軌道が黄道面(=地球の公転軌道面)と為す角度が必要で
ある。これを対黄道軌道面傾斜(記号i)という。また、軌道面と黄道面の交点の
方向が必要である。これは(日心)黄経で与えられ、昇交点黄経(記号Ω)という。
また最後に、近日点が、昇交点からどれだけ離れているかという角度が必要である。
これは軌道面にそった角度で与えられ、近日点引数(記号ω)という。

以上a,e,M0,i,Ω,ω の6つがあれば、任意の時点での惑星の位置を算出
することができるので、この6つの値を惑星の軌道要素という。

毎年の理科年表には、その年の惑星位置概算に必要な(平均)軌道要素の値が掲載
される。元期はその年のほぼ真ん中付近に取られている。ただし、理科年表では
近日点引数ωの代りに、近日点黄経ω~が掲載されている。これは本によってはπと
いう記号が使われているものもあるが、Ω+ωの値である。従って、理科年表の
掲載値に基づいて軌道計算をする場合には近日点黄経から昇交点黄経を差し引いて、
近日点引数を求める必要がある。(この部分のロジックはPLAPLA3.Cのソース上に
注釈化して残している。)

なお、理科年表には、長半径aから求められる値ではあるが、平均運動nの値も掲載
されているので、計算で出すより、最初からその掲載値を使用した方が良いであろう。

【軌道面直交座標から日心黄道座標へ】
さて、前々々節で求めた軌道面に沿った直交座標で求められた惑星の位置を日心黄道
座標に変換する方法について簡単にコメントしておく。日心黄道座標が出れば、それ
を地心黄道座標に変換する方法は前出の通りである。

これも単純なベクトルの計算である。まず軌道面の座標を近日点引数の分逆回転させ
て近日点を昇交点の所まで移動させる。次にこれを黄道面の方向へ軌道傾斜角の分だけ
回転させて黄道面に一致させる。そしてこれを昇交点黄経分だけ逆方向に黄道面内で
回転させれば、めでたく黄道の基準点にたどりつく。

行列で書けば、次のようになる。

[cosΩ −sinΩ  0] [1  0    0 ] [cosω −sinω 0] [x]
[sinΩ  cosΩ  0]・[0 cosi −sini]・[sinω  cosω 0]・[y]
[ 0    0   1] [0 sini  cosi] [ 0       0    1] [0]

【軌道要素の変化】
軌道要素に基づく天体の位置計算は、2体問題に基づくものであるが、実際の惑星の
運動は純粋な2体問題では無いので、結果として軌道要素自体が年月につれて変化して
行く。その変化の具合を求める計算式も多くの人が発表している。この計算式を利用
して軌道要素自体を計算する部分は今回公開していないが、日本語で読める本の中で
例えば次のような本に掲載されているので、興味のある方はやってみると面白い。

長沢工 「天体の位置計算・増補版」地人書館

斉藤国治「古天文学」恒星社

なお、この軌道要素を変化させる方法の理論的な根拠については

長沢工 「天体力学入門(下)」地人書館

に詳しく説明してある。


(1993-2-20)

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