さて、昨日の「生ダラ」で木梨さんたちが四羽の白鳥(2人余分に入って6羽 になっていましたが)を踊っていましたが、これは「白鳥の湖」第二幕に出 てくるものです。
「白鳥の湖」はチャイコフスキーの最初のバレエ作品で、1877年モスクワの ボリショイ劇場で初演されました。
ところがこの時、若いプリマをモスクワ市長に睨まれて使えず、中年のプリ マを使わざるを得なかったこと、振付師が途中で病気でダウンし経験の少な い新人の振付師に任せざるを得なかったこと、また各幕の舞台装置の担当者 が互いに連絡を取らずにバラバラのものを作ってしまったこと....要するに スタッフと出演者に恵まれず、公演は大失敗になってしまいます。チャイコ フスキーはショックを受けて、その後13年間バレエを書きませんでした。
この「失敗作」に再度光を当てたのは、ペテルブルグ(後のレニングラード) マリインスキー劇場(現キーロフ劇場)のマリウス・プティパです。
プティパはクラシック・バレエの確立者として知られていますが、実はこの 「白鳥の湖」がまさにそのクラシック・バレエが完成した作品であるとされ ます。
プティパは弟子のイワノフとともに全曲の振付を見直し、曲も一部手直しさ せて、新たな「白鳥の湖」を構成しました。白鳥オデット役には才能豊かな ピエリーナ・レニャーニを起用。黒鳥オディールはボリショイ版を踏襲して 別のバレリーナを使う予定であったといいます。
ところが、何かの事情でこの黒鳥役が公開直前に都合が悪くなってしまった ようなのです。そこで苦肉の策として、レニャーニに黒鳥も踊らせるという ことをしました。そして、これが大成功でした。
レニャーニは当初は規定通りに踊っていたらしいのですが、何日目かの第三 幕(舞踏会で黒鳥が王子を誘惑するシーン)で突如グラン・フェッテ・アン トールナンで32回連続回転をするという大技を披露して観客の度肝を抜きま した。彼女はそれと同時に自分の名前を歴史に残し、この「白鳥の湖」をバ レエ史上最大の名作にしました。以来この作品ではオデットとオディールは 同じバレリーナが踊る習慣になっています。
第一幕 : 城の庭で成人式を明日に控えた王子が友人達と祝宴をあげている。
そこに王妃がやってきて、明日の舞踏会で婚約者を選ぶようにと
通告する。王子は気が滅入る。その時白鳥が飛んでいくのを見て、
白鳥狩りに出かける。
第二幕 : 王子は白鳥が人間の娘に変身するのを目撃して驚く。その中のオ
デットが事情を説明。悪魔の呪いのため夜の間だけ人間に戻るこ
とができるが誰とも愛を誓ったことのない青年が永遠の愛を誓っ
てくれれば呪いは解けると語る。王子はオデットに愛を誓い、明
日の舞踏会ではオデットが来るまで婚約者は選ばないと約束する。
「アダージョ」や「四羽の白鳥」など有名な場面が多い。
第三幕 : 舞踏会。「スペインの踊り」など6人の花嫁候補が踊った後、悪 魔ロットバルトが娘のオディールをオデットそっくりに変装させ て登場する。ここでオディールが例の32回のグラン・フェッテを 披露する訳である。王子はオディールをオデットと思いこみ彼女 を婚約者に選ぶと言ってしまい愛の誓いをする。ロットバルトと オディールは大笑いして去る。王子はだまされたことを知る。
第四幕 : オデットが泣きながら戻ってくる。そこへ王子も来て詫びるが、 どうしようもない。ロットバルトが現れて早くオディールと結婚 するように言う。オデットはもはやこれまでと悲観し湖に身投げ して死んでしまう。王子もその後を追う。するとその瞬間ロット バルトは墜落。呪いは解けて娘たちは朝になっても白鳥にならず に済むようになった。朝の光の中、オデットと王子の魂が天国に 召されていくのが見える。
さて、問題はこの第四幕のラストの展開です。ここが実に様々に改変されて います。まずオデットと王子が死なずに悪魔が倒されるハッピーエンド版が あります。また王子は死ぬがオデットは助かる版があります。また二人が 死んでそのままという超悲劇的版もあります。さて、あなたの美学ではどの 展開がお好みでしょうか?