星の界(エリー,いつくしみふかき)

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明日6日は公現節ですのでいよいよこの特集も今日で終わりです。さて最後は また讃美歌に戻って「星の世界」で締めておきましょう。

この曲はタイトルにしてもメロディーにしても昨日取り上げた「冬の星座」と似ているので、混同してしまう人がよくあります。

「木枯らし途絶えて」(ドーレミソラドソーミー)が「冬の星座」
「月無きみそらに」(ソーソラソミドドーラー)が「星の界」。  そして
「かがやく夜空の」(ソーソラソミドドーラー)が「星の世界」です。

分からない方はMIDIも聞き比べてみましょう。

■冬の星座→こちらへ

■星の世界↓

↓自動再生はオフにしているのですが、一部のブラウザではそれを無視して自動再生されてしまうようです。音が邪魔な場合、恐れ入りますが停止ボタンで停めて下さい。

聴いても分からない? 実は私も聴いても分からず、楽譜に書いてみてやっと 分かりました(^^;;; 楽譜も掲示したいところですが楽譜を出力するソフトを 持っていないので今年はパスです。楽譜に書いてみて分かったのですが、両者 はリズムが全くといっていいほど同じなのですがコード進行の形式が全く異なり ます。「冬の星座」がひじょうに原始的で素朴なコードなのに対して「星の界」 はごく普通の標準的なコード進行になっています。伴奏を付ける人は明らかに 「冬の星座」のほうが苦労します。こんなに同じ和音を続けていいのかと不安 になってくるのです。

ところで「星の世界」と「星の界(よ)」とがあります。

「月無きみ空に、きらめく光」は杉谷代水(1874-1915)作詞の「星の界(よ)」で
「かがやく夜空の、星の光よ」は川路柳虹(1888-1959)作詞の「星の世界」です。

どちらで覚えたかは人によって完璧に別れるようです。これが讃美歌になると 讃美歌312番「いつくしみふかき」/讃美歌21-493番「いつくしみ深い」となっ ています。歌詞は讃美歌21になっても変更されていないようです。この讃美歌 の歌詞は著作権の権利関係が不明ですので残念ながらここには紹介できません。 また川路柳虹も著作権が残っていますが、杉谷代水はもう切れていますので、 このメールの最後に紹介したいと思います。

この曲の元歌はCharles Crozat Converse(1832-1918)が書いた Erie という曲 ですが、讃美歌のほうは Joseph M. Scriven(1819-1886)の What a friend we have in Jesus (1855)という詩を乗せて歌われていた物をほぼ直訳したものです。

まずはそのScrivenの詩をあげましょう。

What a friend we have in Jesus       なんと良き友、イエスよ
All our sins and grief's to bear     我らの罪と悲しみを全て背負う
What a privilege to carry            なんと素晴らしきことか
Everything to God in prayer          神に全てを打ち明くるとは

Oh what peace we often forfeit       我らはしばしば平和を失い
Oh what needless pain we bear        不要な痛みに耐えている
All because we do not carry          それは神に全てを
Everything to God in prayer          打ち明けようとしないからだ

Have we trials and temptations       多く挑み多く誘われ
Is there trouble anywhere            何処にも困り事はあれど
We should never be discouraged       我らは決してくじけない
Take it to the Lord in prayer        祈りて主の所に持っていけるから

Can we find a friend so faithful     かくも良き友は無いであろう
Who will all our sorrows share       全ての悲しみを分かち合うなど
Jesus knows our every weakness       イエスは我らの弱さを全て知っていて
Take it to the Lord in prayer        祈りて主の所に持っていってくれる

Are we weak and heavy laden          不安な心の重荷に苦しみ
Cumbered with a load of care         負荷に耐えられぬ弱さあろうとも
Precious Savior, still our refuge    貴き救い手は必ず我らを保護し
Take it to the Lord in prayer        祈りて主の所に持っていってくれる

Do thy friends despise, for sake thee  汝の友が望むなら
Take it to the Lord in prayer          祈りて主の所へ行かれよ
In His arms He'll take and shield thee 武器と楯を持って来られても
Thou wilt find a solace there          そこに行けば安寧があるであろう
Joseph Scrivenは1819年9月10日にアイルランドで生まれました。大学を出て 文学士の資格を取り事業をしていたようですが1844年頃に結婚式を目前にして 破産する憂き目に遭い、婚約者と別れてカナダに渡り、新大陸での伝道をする 生活に入りました。そしてその活動をしている時に、現地で新たな恋をして 婚約者ができるのですが、その相手が彼の宗派の教理に従って再洗礼をうける ために冬の湖水に入ったところ風邪をひいてしまい、これをこじらせて亡くな ってしまうという悲劇におそわれます。しかし失意の中でも彼は神への愛は 忘れず、一生をその地で過ごし、宗教活動と詩作の日々を送りました。悲しい 前半生だっただけに彼は特に弱者救済には熱心で、多くの貧しい人々や身体の 不自由な人々を助けて、御飯を作ってあげたり薪を取ってきてあげたり、して いました。

1854年故郷のアイルランドから母が病気で危ないので帰国できないか?という 手紙が届きます。しかし彼はとても戻れる状態ではなかったので代わりに詩を 書いて母に送りました。それがこの What a friend we have in Jesus です。

1886年10月、彼の遺体が(かつて恋人が亡くなる原因となった?)湖の底に沈ん でいるのが近所の人により発見されました。そして実は What a friend....が 世に知られるのは彼の死後のことなのです。

その内容に感動した多くの人々がこれに曲を付けたのですが、その中でも現在 ではConverseのものが最も著名になっています。なおこの詩は当初は作者不明 のまま流布してしまい、作者が判明したのは逆にConverse作曲の歌で著名に なったあとだそうです。

Charles Crozat Converseは1832年10月7日マサチューセッツ州Warrenで生まれ ました。学校で法律と哲学と音楽を勉強し、法律家として成功しています。 そして弁護士活動を続けながら多くの曲を書き続けました。彼の音楽はジャンル がひじょうに多彩で、弦楽四重奏、カンタータ、オラトリオ、合唱曲、ゴスペル、 更には交響曲にまで及んでいます。

Converseがこの曲を書いたのは1868年のことで、Erie というタイトルでした。 当時は特に歌詞は無かったようです。ここでこのErieというのは人名ではなく 五大湖のエリー湖のことで、おそらくエリー湖を称える歌であったのでしょう。

さてScrivenの死後、What a friend...の詩が何人かの作曲家に取り上げられる ようになり、著名な作曲家である Ira David Sankey (1840-1908)もこれに曲を 付けています。彼の曲集の中に、この歌があるのを見たConverseは、この歌は 自分の書いた Erie のメロディーに乗せて歌うことも可能であることに気づき そのセットで発表しますと、これがひじょう評判になり、大ヒットとなりました。 これが1900年代の初期のことのようです。

おりしも第一次世界大戦(1914-1919)が起きると、今度はこのConverseの曲に 誰かが反戦的な歌詞を乗せて歌い広めました。その歌詞自体がひじょうにバリ エーションが多いのですが、その中のひとつを下記に収録します。

When This Bloody War is Over      この血なまぐさい戦争はいつ終わるのか

When this bloody war is over      この血なまぐさい戦争はいつ終わるのか
Oh, how happy I will be;          はやく幸福な時が来て欲しい
When I get my civvy clothes on    軍服を脱いで
No more soldiering for me.        戦闘なんてしなくて済む生活ができる時が

No more church parades on Sunday  日曜の教会の行列はごめんだ
No more begging for a pass;       外出許可を取るのに惨めな思いするのもごめんだ
I will tell the Sergeant Major    軍曹殿に言ってやりたい
To stuff his passes up his ass.   あんたの外出許可証を尻に突っ込んでやるぜと

I will sound my own reveille      自分の起床ラッパで起きて
I will beat my own tattoo;        自分の帰営ラッパで帰りたい
No more NCOs to curse me,         下士官のグチもごめんだ
No more fucking Army stew.        まずくてしょうがない軍隊シチューもごめんだ
この反戦歌によってもこの曲はひじょうに多くの人に知られるようになりました。 この反戦歌自体は近年では1969年の映画「Oh! What a Lovely War」の中でも とりあげられたようです。

日本では1910年の「教科統合中学唱歌(二)」に杉谷代水作詞の「星の界」が 収録されていました。おそらくアメリカでConverseの曲でWhat a friend...が ヒットした直後のことなのでしょう。この杉谷版の歌詞を下記にあげておきます。 元々の曲には歌詞がなかったのですから、この歌はどう歌っても自由という 気がします。

星の界    杉谷代水(1874-1915)

月なきみ空に きらめく光
嗚呼その星影 希望のすがた
人智は果(はて)なし 無窮(むきゅう)の遠(おち)に
いざその星影 きわめも行かん

雲なきみ空に 横とう光
嗚呼洋々たる 銀河の流れ
仰ぎて眺むる 万里のあなた
いざ棹させよや 窮理の船に
川路柳虹の歌詞の方はいつ頃出たものかはよく分かりませんが、川路のものが 口語度が高いので、戦後の教科書では川路版が多いのかも知れません。あるい は教科書の出版社により違うのか、あるいは教科書外の愛唱歌集などに杉谷版 が入っていたのか、そのあたりの事情はよく分かりませんが。とにかく世代と 無関係に、杉谷版に親しんでいる人と川路版に親しんでいる人とがいるようで す。この点、世代により境界が別れているように思われる他郷の月/冬の星座 と異なる点です。

(ここまでは多分2000-2004年頃の記事)

星の世界    川路柳虹(1888-1959)

かがやく夜空の 星の光よ
まばたく数多(あまた)の 遠い世界よ
ふけゆく秋の夜 すみわたる空
のぞめば不思議な 星の世界よ

きらめく光は 玉か黄金(こがね)か
宇宙の広さを しみじみ思う
やさしい光に まばたく星座
のぞめば不思議な 星の世界よ

(川路版の歌詞は2017.1.2追加記載)


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