アメイジング・グレース

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アメイジング・グレイスという曲を私が知ったのは、以前テレビで流れていた美しいアカペラ(無伴奏)による詠唱のCMがきっかけでした。なぜか耳に残っていたのですが、ある時新聞の記事で特集されていて、この曲をCM撮りした時に最初は普通に伴奏を付けたのですが、どうにもしっくりこなくて、試しにアカペラで歌ったら、ものすごく透明に感じられたのでそれを採用したといったことでした。その時この歌の背景については説明されていなかったのですが、ただ「アメイジング・グレイス」という歌の名前だけが私の記憶に残りました。そのCMでその美しいソプラノのアカペラを披露していたのは元トワ・エ・モワの白鳥英美子さんです。この歌は最近テレビドラマでも使用されて、また話題になっています。

まずは、やはり背景の説明無しでこの歌の歌詞を挙げましょう。

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Amazing Grace    by John Newton           われをもすくいし(讃美歌2編167番)

Amazing grace! (how sweet the sound)      驚くべき恵みよ!(なんと甘い響き)
That sav'd a wretch like me!              神は私のような罪深き者も救われた
I once was lost, but now am found,        私は見失われたが今見いだされたのだ    *1
Was blind, but now I see.                 私は何も見えていなかったが今は見える

'Twas grace that taught my heart to fear, 私の心に畏れることを教えたのも恵み
And grace my fears reliev'd;              そして私の心を畏れから解放したのも恵み
How precious did that grace appear,       なんと恵みは貴くも現れたのか
The hour I first believ'd!                私が初めてそれを信じた時に

Thro' many dangers, toils and snares,     多くの危険と苦悩と罠を越えて
I have already come;                      私はやってきた
'Tis grace has brought me safe thus far,  その間私が無事だったのも恵みのお陰
And grace will lead me home.              そして恵みが私を天国へ導いてくれる

The Lord has promis'd good to me,         主は私に良きことを約束された
His word my hope secures;                 主の言葉は私の望みを保証する
He will my shield and portion be,         主は私の盾となり私の一部となる
As long as life endures.                  命のながらえる限り

Yes, when this flesh and heart shall fail,そうこの肉体と心が朽ちて
And mortal life shall cease;              限りある命が終わるとき
I shall possess, within the veil,         私は帳の中に隠されている
A life of joy and peace.                  喜びと平和の命を得るだろう

The earth shall soon dissolve like snow,  いつかは地球も雪のように消えるだろう
The sun forbear to shine;                 太陽も輝きを失うだろう
But God, who call'd me here below,        しかし私に呼びかけてくれた神は
Will be forever mine.                     常に私とともにあるだろう

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(*1)聖書のマタイ伝18-10には、100匹の羊を飼っていてその内1匹が迷子に
なったため、残りの99匹を置いてその迷子の羊を探しに行き、見つけると
いう話が出てくる。
この歌を「イギリス民謡」と紹介しますと「え?黒人霊歌では?」と思う方もおられるでしょう。この歌はもともとイギリスで広まった後、その内容とおそらく作詞者に対する小さな感謝からアメリカの黒人奴隷の間でも歌われるようになったものなのです。

作詞者のJohn Newton は1725年7月24日ロンドンで生まれました。お父さんは地中海航路の商船の指揮官で、彼も11歳の時から父に従って船に乗り、仕事を手伝うようになりました。やがてお父さんが引退したあとはひとりで船乗りとして働くようになるのですが、ある時乗組員になった船がアフリカのシェラレオネからアメリカ大陸へ黒人を奴隷として運ぶ船でした。そして彼はこの船で、彼自身が奴隷のように過酷な労働を強いられます。

そんな彼を救出したのは彼の父の友人の船長さんでした。彼はその後独り立ちして自分で船を持つようになりますが、その若き船長となった彼に託された仕事が、また奴隷の運搬でした。アフリカとアメリカを今度は自分が指揮して黒人たちを運搬するようになったのですが、そんなあるとき、彼は航海中に大きな嵐に出会います。

船がかつてないほど激しく揺れ、浸水も起きてもうダメかと思った時、彼は初めて「神よ助け賜え」と心から祈ったのです。すると不思議なことにその祈りのあと急に嵐はやみ、彼の船は奇跡的に助かりました。

この時、彼の心の中で大きな転向が起きました。彼はそれを自分の第二の誕生日としてしっかり記憶していました。それは1748年5月10日、彼が22歳の時です。

それまで奴隷船の黒人たちは家畜以下の扱いをうけており、トイレなども行かせてもらえず垂れ流しの状態だったのですが、これ以降、彼の船に乗せられた黒人奴隷たちだけは最低限の人間としての尊厳だけは守られるような扱いをされるようになりました。

やがて彼は1755年頃に病気がもとで船の仕事から引退しますが、この後の人生を彼は一生神に仕えるために過ごしました。ラテン語を学び、聖書も勉強しなおして、10年後には教会の神職の地位を得ています。

このアメイジング・グレイスは1765年頃に書かれたものと思われますが(作曲者は不詳)、奴隷貿易などという罪深いことをしていた自分のようなものにまで、神は祈りに応えて救いを与えてくれたという奇蹟に対する感動を歌ったものです。私はその話を聞いてからあらためてこの歌の歌詞を読んでみて、涙が出てくるのを止めることができませんでした。確かにジョン・ニュートンは罪深いことをしたのかも知れませんが、神の前では悪人も等しく救われるのだという素晴らしい真実がここにあります。親鸞聖人がいう悪人正機というのも、こういうことなのかも知れないと、私は感動したのです(実際はかなり違いますが−悪人正機はたぶんもっと絶対的な救済)。

なお、この歌はもっと長い歌詞のバージョンも流布していますが、元々の歌詞はここにあげた6連からなるもので、そのあとの部分は後世の人たちが追加したものです。

John Newtonは1807年12月21日に亡くなっています。


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