夜も遅いので男は近くの小屋に女を連れ込み奥で休ませて、自分は入口で見張っていた。ところがその小屋は鬼が出る小屋であった。女が悲鳴を上げたが雷の音に紛れてその声は男には聞こえなかった。気が付いた時は女は鬼に喰われてしまっていた。
男は夜明けになってやっと気が付き、さめざめと泣いてこう歌った。
白玉か、何ぞと人の問ひし時、露と答えて、消えなましものを
結局、藤原高子は清和天皇に嫁ぎ、2人の皇子と1人の皇女を産み、長男・貞明親王は皇太子となる。3人の子供が出来たとはいえ、清和天皇と高子の間は決して仲のよいものではなく、天皇の思いは藤原良相の娘・多美子のもとにあった。そして高子の思いは常に業平のもとにあった。二人は二人だけで親しく語らうような時間はなくても、歌の会などで接する機会はあったようである。
やがて、清和天皇が退位、高子の子である貞明親王が新天皇になる(陽成天皇)。高子は天皇の母という立場を利用して業平をどんどん昇進させ頭中将(今で言えば内閣官房副長官のようなもの)にまで取り立てる。その業平は高子への思いをこのようにも歌っている。
千早振る、神代も聞かず、龍田川、唐紅に、水くくるとは
美しい純愛であった。