11月16日は「幼稚園の日」です。これは1876年11月16日に、東京女子師範学校(現お茶の水女子大)に附属幼稚園が設置されたのを記念するものです。これは日本で最初の官立(国立)幼稚園です。
幼稚園の始まりはイギリスのRobert Owen(1771-1858)が1800年頃に作った子供のための施設とされています。オーエンは1799年にNew Lanarkの紡績工場を買い取りますが、その時労働者の中に5〜6歳の子供がかなり混じっているのに気付き、こんな小さな子供たちを働かせるのは可哀想だといって労働をさせる代わりに、教育施設を作って、そこで色々勉強することが彼らの仕事である、ということにしました。
続いてドイツのFriedrich Wilhelm August Froebel(1782-1852)がスイスの教育家ペスタロッチ(Johann Heinrich Pestalozzi,1746-1827)との交流からその思想に触発され、1836年にKindergarten(子供達の庭という意味)という幼児の教育施設を作りました。彼はこの施設で子供達に、お遊戯・積み木・鳥や小動物とのふれあい・花や野菜の栽培など、をさせており、これが現在の幼稚園のあり方のルーツであるとされます。そのため現在でも幼稚園のことを一般名詞で kindergarten (英語でもこのスペル。kindergardenは本来誤字)と呼ぶ呼び方が定着しています。
現在日本の幼稚園は全国で約14,000個で、そのうち約6割が私立です。また幼稚園と並ぶ保育施設として保育園や保育所が全国に30,000個ほどあります。2系統に別れてしまっているのは、幼稚園は文部科学省/学校教育法の所管、保育園・保育所・託児所は厚生労働省/児童福祉法の所管だからです。このためそこで働くにも幼稚園は幼稚園教諭、保育所は保育士(*1)の資格が必要です(一般に両方の資格を取得する人が多い)。
(*1)「保育師」ではなく「保育士」と書く。看護師・保健師・助産師は「師」だが、保育士・栄養士は「士」。全く紛らわしいので、あちこちで多数の誤字を見掛ける。
基本的なコンセプトとしては、保育園・保育所・託児所は仕事や病気・出産などのために子供の世話をできない親から子供を預かる場所であるのに対して、幼稚園は小学校にあがる前の子供の教育をする場所(Pre-school)であるということになっています。そのため、幼稚園は午後2時くらいまで、保育園は夕方まで子供を預かるのが原則ですが、幼稚園でも延長保育をしているところは多く、また保育園でも音楽や英語などの教育までするところもあり、両者の境はかなり曖昧になってきています。そのため、両者を統一的に取り扱うべきだという議論も昔からあり、同じ場所に幼稚園と保育園も設置するなどの実験的な試み(鳥取市のこじか園など)も行われたりしています。
基本的には最近子供の数が減っているためこういう施設も総数では減る傾向があるようですが、保育所の数が絶対的に不足している地域もあり、都会では大量の「待機児童」が問題になっています。またどうしても料金の安い「認可保育所」への入所ができないと、転勤などによる欠員を待ちながら「認可外保育所」に預ける場合も多いですが、その場合の負担はかなり大きく、家庭収入が少ないのでそれを補うために奥さんがパートに出ているケースで、保育料がパートの収入を上回るようなケースも多々あり、「何のためパートに出ているのか自分で分からなくなる」などという声もあったりします。企業に託児所の設置を義務づけようという意見もかなり以前からありますが、企業側は長引く不況の中で費用のかかることをするのを渋る傾向があります。
幼稚園に通う子の場合、午後2時で終わってしまうので、その後、色々な習い事に行く子も多くいます。英語教室・音楽教室・水泳教室・ダンス教室・小学校受験準備教室などは参加者が多いですが、最近は幼稚園の敷地内に、そういう教室を併設している幼稚園もあり、その場合幼稚園から教室までシームレスに利用できる(課外保育)のが喜ばれています。
幼稚園は学校とは言っても小学校以上の学校とは違い、園による雰囲気の差はかなり大きな物です。大別して「お勉強」系の幼稚園と、「のびのび」系の幼稚園がありますが、最近の風潮としては後者の方が増えているのではないかと思われます。またお寺や教会が敷地内に幼稚園を設置しているところも多いですが、教育内容は一般に宗教色の薄いところが多いように思われます。またそもそも明確なコンセプトを持ってしっかりとした教育をする所と、コンセプトなどなく全て適当でアバウトな所がありますが、これもアバウトなところが好まれる傾向にあるようです。学校に上がればいろいろ鍛えられるのだから、小さい内は思いっきり遊ばせてあげた方が、人格形成には良いと考える親が増えていると思われます。
これも長い不況の時代の中で大企業ほど熾烈なリストラがおこなわれていることや、子供の数の減少で大学全入時代がやってきて、高度経済成長期や受験戦争期の価値観が崩壊してしまったことも背景にあるものと思われます。