1885年(明治19年)8月14日、日本で初めて特許が認可されました。
これは同年4月18日にできた専売特許条例に基づき、7月に東京の堀田瑞松(後の日本漆業研究所創設者)が塗料に関する特許を申請。審査の結果、認められたものです。
特許の基本的な考え方は先進的な発明をした人に一定期間の独占使用権を与えて優遇しようというものです。最初の特許法は1474年にヴェネチアで制定されました。
現在日本では年間30万件の特許が申請され、7万件の認定が行われています。これだけ多数の特許が出ていると、何か新しいことを考えてもそれが既に登録済みなどということは頻繁に起こり、企業が新しい製品を開発する際にどこかの特許にぶつかっているということはしばしばあります。そういう時の一般的なやりかたは「バーター」であり、自分が持っているある特許を自由に相手にも使わせる代わりに相手の特許もこちらで自由に使わせてくれという交渉をします。そこでまた企業は自社で特許をできるだけたくさん獲得しようということになり、社内での発明を推奨。特に現在IT関係の企業などの特許出願数は物凄いものがあります。
特許という制度がなかったら、画期的な発明をした人はそれを他人に知られることをおそれて秘密・秘伝にし、自分が認めた後継者だけにそれを伝えようとするでしょう。それでその人が伝承者を決める前に突然死などしたらその技術が永遠に失われ人類の損失になることもあります。
特許があると、こういう発明をしたということを告知し、その人が優先的な権利を持つことで発明者は尊重されますし、万一のことがあっても人類の損失になることはありません。しかもその発明を参考にしてもっと凄い事を考える人が出ることもあり、人類の技術の発展に大きく貢献するのです。
ところが最近こういう特許制度の基本を揺るがすようなアンフェアな制度の使い方をする人たちが出てきています。それが「サブマリン特許」です。
(サブマリンは「潜水艦」の意味。つまりずっと水面下に潜っているという事)
これはアメリカの特許制度の考え方が日本やヨーロッパと根本的に異なることから来るもので、日欧からアメリカへの批判が強いのですがさすがに最近ではアメリカ国内でも、これはおかしいのではないかという声も出てきているようです。
日本では特許は「出願」してから20年有効です。ところがアメリカでは「成立」してから17年有効で、しかも審査期間は無期限なので、出願だけして修正・追加を繰り返し成立を引き延ばしておいて、そろそろ時期がいいかなと思ったところで成立に持ち込むということをすれば、とんでもなく長期にわたって、自分の特許を有効にすることができます。更に困ったことに、日欧では特許は公開されて、他の人たちがそれを超える発明をする刺激になるようになっているのに対してアメリカでは産業育成より個人保護に重点が置かれているため特許の内容は非公開です。このため、何か新しい事を考えても、それが誰かの特許にぶつかっていないかどうかを知るすべがありません。 それで製品を出して大きな利益が出始めたと思ったら突然誰か知らない人から「それは自分の特許を侵害してるぞ。○百億ドル損害賠償しろ」などと言われるわけです。
もちろんそういう事態は、製品化する前に自分でその技術を特許申請していれば万一誰かの特許とぶつかっていればその時点で情報が得られますので、交渉の余地はあります。しかしこういうルールを知らない外国の企業が自社で作った商品が好評なのでとそれをアメリカにも輸出したりすると、そこで突然クレームが付いたりするわけです。
ただ私は権利を持っている人が、自分の特許に触れることをしている人がいると気づいた時点で主張をしはじめるのは、そんなに問題とは思いません。これはむしろアメリカの特許制度の欠陥であって、個人の責任ではないでしょう。
それよりも私が不愉快なのは、権利に触れることを知っていながら長年放置し後になってから突然権利主張をしはじめる人たちです。これは別の意味でのサブマリン特許ともいえます。
近年ではインターネット上で広く使用されているGIF画像に関して、そのGIFを作成・解読するのに使用されているLZW圧縮という方式に関してGIFが大きく普及した後で突然Unisys社がその特許の主張をするという事態があり、ネット社会は大きく揺れました。
Unisysは初期の段階では別にその技術を使っても構わないといったことを言っていたのでそれでGIFは普及したのですが、後で突然権利を主張しはじめ、最初はGIFを開発したCompuServe社からお金を取り、次にはGIFをサポートしているソフトウェアを作っている作者からお金を取り、最後にはGIFを使用しているホームページの運用者にまでお金を請求してきました。(ホームページ運用者への請求額は非商用のページで約50万円)
Unisys社の主張は合法ではあってもアンフェアだと感じる人は多く、Unisysは巨額の利益と交換に多くの世界中に多数のアンチを生み出しました。そしてUnisysがGIFで儲けたのを見て今度はもうひとつのネット上での代表的な画像形式であるJPEGの中で使用されている技術のひとつに関して権利を持つ人が突然同様の主張を始めており、訴訟されると弱い日本の企業の中に既に和解金を支払ってしまった所もあって、その主張をする人はかなり調子に乗っているようです。
本当ならこういう権利主張というのは「最初から」すべきものであって、それが世の中に広まったのを待ってから突然主張しはじめるというのは、私の感覚では、やはりおかしいと思います。
むろん法的には間違ってはいませんし非難されるべきものではありませんが。