4月23日はサンジョルディの日。「あれ聞いた記憶はあるけど、何の日だったっけ?」という方も多いかも知れません。
これはしばしば「定着しなかった記念日」として例に挙げられます。
サンジョルディの日というのは本屋さんがキャンペーンをしていたもので「本を贈る日」です。サン・ジョルディこと聖ゲオルギウスは303年4月23日に殉教した騎士です。(4月24日を祝日とする説もある)彼の物語を少し見てみます。
リビアのシレナの町の近くの湖に悪いドラゴンが住んでいた。人々をドラゴンをなだめるために最初は羊を毎日2頭捧げていたが、そのうち羊が少なくなってしまったので羊1頭と若い人間を捧げるようになった。そのため若い男女が少なくなり、ある日王は自分の姫を捧げることになってしまった。
王は8日間嘆き悲しんでから姫を湖のほとりにおいて戻ってきた。たまたまそこを通りかかったゲオルギウスはドラゴン退治に乗り出すことにした。彼は湖のほとりで王女に立ち去るように言い戦い始めた。しかしなかなか決着がつかない。その時ゲオルギウスは王女に腰帯をドラゴンの頭に投げるように言った。するとドラゴンがおとなしくなったので、それを町までひきずっていき、人々の前でドラゴンを殺した。
この騎士の行動を見て多くの人がキリスト教に帰依し、教会を建てた。彼は王たちに4つのことを守るように言って町を後にした。・教会をつねに敬うこと・司祭を大切にすること・ミサを厳かに行うこと・貧しい者を絶えず思いやること
聖ゲオルギウス信仰はケルト文化の中で語り継がれて来たものです。それがやがて十字軍の時に戦士たちの守護者として信仰されるようになり、イギリスやギリシャやカタロニヤなどで町の守護神として崇敬されるようになっていきます。そしてカタロニヤではこの日に男性が女性に赤いバラを贈る習慣ができました。これは赤が聖ゲオルギウスが退治した竜の血の色とされるからです。
このゲオルギウス祭が本のプレゼントと結びついたのは、フランコ独裁時代のカタロニヤでのことであるとされます。
この頃カタロニヤはスペイン語の使用を義務付けられ、それに反発する庶民がこの日に禁止されたカタロニヤ語の本を互いにプレゼントして、祖国への愛を誓ったものです。
カタロニヤの人たちにとっては聖ゲオルギウスの倒した竜がフランコであり、いつか独裁者を倒して自分たちの国の独立を夢見て危険なプレゼントを密かに行っていました。
そして1975年にフランコが死去するとスペインはファン・カルロス1世を迎えて王政復古。これにともない1977年カタロニヤは自治権を獲得、これ以来、この聖ゲオルギウス祭はカタロニヤにとって重要な祝日となりました。
この聖ゲオルギウス祭を日本に紹介したのは占い師の竹村亜希子氏です。彼女カタロニヤで見かけた、その日人々が皆、町でプレゼントを交換しあう様子に感激し、またこの祭の由来に感動して、この祭の紹介をしたのですが、これに新東通信の谷喜久郎社長が関心を示し、出版業界と生花業界を巻き込んで「サン・ジョルディの日」のキャンペーンを行いました。1986年のことです。
しかしこのキャンペーンは最初はかなりの関心を呼んだものの、だんだん尻すぼみになっていき、今では半ば忘れられ掛けています。その原因もまた色々と言われるのですが、やはり最大の原因は「本」というのものがなかなか「贈り物」というものに馴染まないということがあげられるのではないでしょうか。
バレンタインデーで見られたチョコレートとか、クリスマスで見られるケーキなどであれば、多少好みに合わなくても食べてしまうでしょうが、人は好みに合わない本はわざわざ読みません。ここに本の贈り物の難しさがあります。
カタロニヤの場合は、カタロニヤ語の本というところに重要な意志がこめられていたのですが。。。
またもう一つはタイミングの悪さの問題もあるでしょう。クリスマスは年末の開放感がこの日を盛り上げますし、バレンタインも卒業シーズンを前に恋を打ち明けるタイミングとしてはいい時期を捉えています。
しかし4月下旬は入学シーズンが落ち着き人々はゴールデンウィークを前に旅行などの計画を練っているような時期で、学生は新しい教科書をたくさん手にしたばかりですし、書店自体がそういうキャンペーンを張るよりも参考書や旅行案内などをどんどん売りたい時期です。踊らせようとする側と踊らされる側双方に無理があったかも知れません。