この時期は風邪もインフルエンザも多くなります。1月9日が風邪の日とされているのは、寛政7年(1795)のこの日に、第四代横綱で63連勝の記録を持つ2代目谷風梶之助が流感で亡くなったからです。体力のあるお相撲さんでも、病気には勝てない時があります。谷風も生前「自分は土俵の上では倒されない。俺を倒せるのは風邪くらいかな」と豪語していたという伝説がありますが、寛政6年の年末にインフルエンザで倒れ高熱との奮戦もむなしくこの日帰らぬ人となりました。そこでインフルエンザのことを「風」にひっかけて「谷風」と呼ぶようになったともいわれています。「無敵の風邪」という意味です。
さて普通の風邪とインフルエンザは症状が似ているので混同されるのですが、結構な違いがあります。一番の違いは関節や筋肉の痛みを伴う全身症状があるかどうかで、単純な風邪の場合は概して鼻水や鼻づまりなどが先行します。
インフルエンザはインフルエンザ・ウィルスによるものですが、感染力が強い上に、基本的にA型・B型・C型という3種類があり、年によってどれが流行するかも違うのでなかなかたいへんです。インフルエンザの予防接種ではだいたい幾つかのタイプを混合しているようです。またかかってしまった場合は、だいたい「48時間以内」が治療の目安です。夜間や休日でも症状がきついと思う場合は、その地区の時間外担当医や休日診療所などに飛び込みましょう。どこにあるのか分からない場合は、どこでもいいので近くの病院に電話してみましょう。教えてくれるはずです。
普通の風邪の場合はハッキリいって原因がよく分からないものも多いのですが、一般にありふれたコロナウィルスなどによって引き起こされると考えられています。風邪の場合は、とにかく寝ているしかありません。栄養のつくものを食べて充分な水分をとって(お茶がのみにくい場合スポーツドリンクなどが良い)安静にしていましょう。原因がよく分からないものであるだけに実際問題として医者もあまり対処のしようがなく「風邪を引いて自宅で寝ていれば治るのに一週間もかかるけど病院にいけばたった一週間で治るよ」というのがよくささやかれます。ただ単純な風邪でも「風邪は万病の元」で合併症を引き起こす場合もあります。特にお年寄りや幼児など体力のない人は早めに医者にみせておいた方が無難です。
さて医者に行くとインフルエンザの場合も風邪の場合もよく抗生物質を薬として渡されるケースがこれまであったのですが、抗生物質というのは細菌に効くものであり、細菌よりずっと小さな生物であるウィルスには作用しません。これは網で水を汲もうとするようなものです。
それにも関わらず医者にも患者にも抗生物質信仰のようなものがあり、とうとう年末に「風邪に抗生物質は無効」という文章が今年の厚生労働省の指針に明記されることが決まりました。抗生物質は効果がない上に、耐性菌を生み出して院内感染を起こす元凶となっており、はやくこの「常識」を普及させたいものです。
日本では仕事熱心なあまり、風邪をひいているのに会社に出てきて仕事をしようとする人たちが良くいるのですが、ハッキリいってこれは迷惑です。風邪をひいた状態では仕事の質が良くないですし、無理することが治るのが遅れますし、他人にうつしてしまう場合もあります。一週間休んでしっかり治しましょう。かくいう私も会社勤めしていた時代はけっこう無理して出て行っていたものです。しかし独立してひとりで仕事をしていると、風邪をひいて寝ている間は無収入になります。これはひじょうにきついことで、とにかく何とか風邪をひかないようにと苦労します。基本的に人混みの中にできるだけ入らないようにし、飲食店などで原稿を書いている時は、入口の近くや空調の吹出口のそばなど、できるだけ空気の循環の良いところに座ります。また近くにひどく咳をしているような人がいたら即その店を出ます。そしてつくづく「風邪ひいてる人が公共の場所に出てくるなよ。迷惑だ」と思うのです。
風邪は予防が一番です。外出から戻ったら手荒いとうがいを励行しましょう。また飲食店などでおしぼりの無いところでは食べる前にウェットティッシュで手を拭きましょう。